レセプト返戻とは?原因・再請求の流れ・ミスを減らす方法を紹介
医療機関の業務効率低下や収益状況の悪化など、さまざまな影響を及ぼす「レセプト返戻」。この記事では、レセプト返戻とはそもそも何なのか、主な発生原因とともに紹介します。レセプト返戻後の再請求の流れや期限、レセプト返戻を未然に防ぐ具体的な対策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
レセプト返戻とは
レセプト返戻とは、審査支払機関と保険者がレセプト(診療報酬明細書)の記載不備を指摘し、医療機関に差し戻すことです。レセプト返戻があった場合、医療機関側はレセプトの内容を訂正し、再請求を行う必要があります。
レセプト返戻が発生すると再請求を行う手間がかかるため、医療機関が報酬の支払いを受けるまでに時間を要します。これは、医療機関の収益や資金繰りに悪影響を与える重要な問題です。そのため、レセプト返戻を減らして正確なレセプト請求を行うことが、医療機関の安定経営に不可欠といえます。
「レセプト返戻」と「レセプト査定」の違い
| レセプト返戻 | レセプト査定 | |
|---|---|---|
| 定義 | レセプトの記載内容に不備があり、医療機関に差し戻されること | レセプトの記載内容が不適当と判断され、診療報酬が減額されて支払われること |
| 再請求可否 | 可能 | 原則不可(再審査請求は可能) |
レセプト返戻は、記載内容に何かしらの不明点や不備があり、医療行為の適否について正しく判断されなかった場合に発生します。対象のレセプトは医療機関に差し戻され、不適切な箇所を修正した後で再請求が必要です。
一方、レセプト査定は、審査支払機関による審査の結果、「保険診療のルールにそぐわない」「医学的に不適当な診療内容が含まれる」などに当てはまる場合に発生します。診療報酬が減額されるか、または請求そのものが取り下げられるため、原則として再請求はできません。
レセプト返戻とレセプト査定、どちらも医療機関の経営に重要な影響を与えるため、正確なレセプト請求業務が不可欠です。
レセプト返戻を行う機関・送付される書類
| 実施機関 | 社会保険診療報酬支払基金 | 国民健康保険団体連合会 |
|---|---|---|
| 保険者の例 | ・協会けんぽ ・健康保険組合 ・共済組合 |
・市町村(国民健康保険) ・後期高齢者医療広域連合 |
| 送付書類※ | 返戻ファイル(返戻理由など含む電磁的記録) | ・返戻ファイル(返戻理由など含む電磁的記録) |
参考:厚生労働省「返戻再請求のオンライン化についてのご案内」
※オンライン請求の場合
レセプト返戻は、「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険団体連合会」が実施します。レセプト返戻を行う保険者は、前者の場合は「協会けんぽ」や「健康保険組合」など、後者の場合は「市町村の国民健康保険」や「後期高齢者医療広域連合」などです。患者さんが加入している保険の種類により、審査支払機関は変わります。
なお、令和5年4月以降、オンライン請求を行う医療機関等については、原則オンラインによるレセプト返戻・再請求を行うこととしています。どちらの審査支払機関から返戻される場合も、返戻ファイル(返戻理由含む電磁的記録)をオンラインでダウンロードする必要があります。
ただし、やむを得ない理由で紙レセプトでの提出を希望する医療機関は、所定の届出を行うことで引き続き紙によるレセプト返戻・再請求手続きを行えます。
レセプト返戻が発生する主な理由3つ
レセプト返戻はなぜ発生するのでしょうか?ここでは、主に保険関連に関する不備、診療報酬請求上のミス、請求内容(事務処理)の誤りという3つの理由について紹介します。
なお、レセプト返戻・レセプト査定の理由に明確な線引きはされていません。審査する側の判断によって異なる場合はあるものの、返戻・査定を招かないためにミスなく正しい請求を行うことが大切です。
保険関連に関する不備
・患者さんの保険証の有効期限切れ(資格喪失)
・保険証記載の記号・番号や氏名、住所、負担割合などの記録ミス
保険関連に関する不備としては、患者さんの保険証の有効期限切れや、記号・番号、氏名、住所、負担割合などの記録間違いなどがあります。
多忙な医療現場では確認が不十分になりがちで、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。最近はマイナ保険証での受診が一般的になりつつあるものの、被保険者証の転記ミスはレセプト返戻を招く最大の理由です。ミスを減らすために、受付時の確実な情報確認が重要です。
診療報酬請求上のミス
・同月に同一傷病名で病院への受診と柔道整復師への受診があった
・病態の記載や定期的な検査なしに、同じ薬剤を長期にわたって漫然と処方し続けている
・届出が必要な診療行為に対して、届出を出していないのに算定してしまっていた(1.2等区分分けされているもの等)
診療報酬請求上のミスとして、同月中の同一傷病名での病院と柔道整復師の受診をしたケースが挙げられます。医科診療優先で請求不可のルールが守られていない場合、請求自体が医師の管理下における柔道整復師からの重複請求として認められず返戻されます。この場合は「レセプト査定」に該当し、再請求はできません。
他にも、詳しい病態の記載や定期的な検査を行っていないにも関わらず、同じ薬剤の長期的な処方を続けている場合や、届出がないのにその診療行為を算定してしまったケースなども、レセプト返戻を招く診療報酬請求上のミスとして挙げられます。
請求内容(事務処理)の誤り
・診療報酬点数の計算ミス
・実際の施術内容と患者の症状が合致しないケース
・診療報酬改定後の点数を把握していないケース
・公費併用の負担割合誤り
・同一月内での重複請求
・請求上必要なコメントの入力漏れ(管理料の初回算定日、レントゲンの撮影部位等)
請求内容や事務処理の誤りは、診療報酬の点数の計算ミスや、実際の施術内容と患者さんの症状が合致しないケースで発生します。診療報酬改定後の点数を把握していない、算定要件を見落としているなどが原因となることが多いです。
ただし、これらのミスは電子カルテやレセプトチェッカーの使用により、防げることが増えています。
また、その他のミスの例として、公費併用で受診した際の負担割合の誤りや、同じ月に受診した場合の重複請求などが挙げられます。
これらの誤りは、レセプト返戻だけでなく査定の対象にもなりうるため、正確な知識と細やかな確認が不可欠です。
レセプト返戻後の再請求の流れ
レセプト返戻が起こってしまったら、どう対応すればよいのでしょうか?ここでは、オンラインレセプトと紙レセプト、それぞれの再請求の流れについて紹介します。
【オンラインレセプト】再請求の流れ
2.オンライン請求システムにアクセスして、「返戻ファイル」をダウンロードする
3.指摘事項にもとづいて内容を訂正する
4.レセコンで返戻があったレセプトを修正し、再請求用のレセプトデータを作成する
5.「4」のデータをオンライン請求システムに読み込fみ、レセプトを再提出する
オンラインレセプトが返戻されたら、医療機関はオンライン請求システムで返戻通知を確認します。指摘された不備内容を確認したうえで、レセコンで再請求用のレセプトデータを作成します。オンライン請求システムに再請求用のレセプトデータを読み込んだことを確認した後、レセプトを提出します。この一連の作業は、すべてオンラインで完結し、紙媒体でのやり取りは不要なため、迅速な再請求が可能です。
参考:厚生労働省「オンラインによる返戻再請求の実施についてのご案内」
【紙レセプト】再請求の流れ
2.返戻理由書を確認し、レセプトの該当箇所を手書き等で訂正する
3.訂正後、返戻されたレセプトを再度郵送で提出(または持参)する
紙レセプトの場合、返戻理由の確認から訂正、再提出後の台帳管理まですべて手作業となるため、時間と手間がかかります。また、令和5年3月原請求分よりオンライン請求が原則化されたため、紙での再請求は例外的な場合に限られます。
レセプト返戻後の再請求の期限は?
レセプト返戻を受けた場合の再請求には期限があります。社会保険診療報酬支払基金のホームページによると、診療報酬請求権の時効は、令和2年3月診療分までは「3年」、それ以降から「原則5年」と定められています。これは、診療を行った月の翌月1日から起算されます。
返戻されたレセプトもこの時効期間内に再請求する必要があり、期限を過ぎると診療報酬を再請求できなくなるため、迅速な対応が必要です。
レセプト返戻を未然に防ぐポイント【医療機関経営者向け】
レセプト返戻は医療機関にとって大きな負担となりますが、未然に防ぐことは可能でしょうか?ここでは、医療機関経営者向けのポイントについて紹介します。
返戻が起こる原因を把握する
レセプト返戻の原因を把握することは、再発防止の第一歩です。事務手続きのミスや保険法上の理解不足、請求内容の誤りなど、自院でどのような原因による返戻が多いかを特定することで、ミスが発生しやすい状況や部署を明確にできます。
たとえば、健康保険証の内容の入力ミスが多い場合、事務業務を行う中でのチェックの仕方やオペレーションを見直す工夫が求められます。原因にもとづいた具体的な対策を講じることで、効率的に返戻を減らし、経営への影響を最小限に抑えられるでしょう。
スタッフへの教育・研修を充実させる
スタッフへの教育・研修を充実させることは、返戻防止に不可欠です。新しいスタッフや業務に不慣れなスタッフに対しては、レセプト請求業務の基本的なフローや注意点を徹底して周知しましょう。
また、定期的な研修を実施し、最新の業界情報や法改正に関する知識をアップデートさせることも重要です。請求業務に関わるスタッフ全体で知識・技術の向上を図ることで、データの入力ミスや入力漏れなど初歩的なミスの防止につなげられます。
診療報酬や法令の改定に柔軟に対応する
診療報酬や法令の改定への柔軟な対応は、返戻防止のために必須です。診療報酬改定は2年に1度行われるため、都度改定された最新情報を正確に把握し、レセプトシステムの設定更新やスタッフへの周知徹底を行う必要があります。
改定内容を理解し、常に知識をアップデートすることで、不適切な請求を未然に防ぎ、スムーズな診療報酬請求を維持できるでしょう。
再確認を行う十分な時間を設ける
レセプトの返戻を防ぐには、再確認に十分な時間を確保することが極めて重要です。業務フローを見直し、スタッフによるデータ入力と、医師や経験豊富なスタッフによる最終確認の適切な時間配分を確立しましょう。
締め切り前の慌ただしい作業を避け、ゆとりあるスケジュールで複数名によるチェック体制を構築することで、見落としや誤りを大幅に削減し、請求の正確性を高めることができます。
ツールを積極的に活用する
レセプト点検ツールなど、入力ミスや漏れをチェックできるツールを積極的に活用することも重要です。ツールの導入により、ヒューマンエラーによる返戻リスクが大幅に減り、作業効率も向上します。
スタッフの負担軽減と請求の正確性向上の両面で、ツールの活用はレセプト返戻を防ぐ重要なポイントになるでしょう。
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レセプト返戻を防いで安定した経営を目指そう
レセプト返戻とは、請求内容の不備によりレセプトが差し戻されることです。事務ミスや保険法上の誤り、請求内容の不一致などが主な原因で、医療機関側は再請求手続きを行う必要があります。レセプト返戻を防ぐには、スタッフ教育や法令対応、ツール活用などが重要です。正確なレセプト作成で、医療機関経営の安定化を目指しましょう。
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