病院の労務管理はなぜ重要?やるべきことや課題・適切な進め方を解説
病院経営において、重要な仕事の一つに「労務管理」があります。今回は労務管理が病院の安定した経営のために重要な理由や、労務管理でやるべきこと、ポイントなどをご紹介。労務管理に割く時間がない、とお悩みの経営者さまにおすすめのサービスも紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
病院における労務管理とは
労務管理とは、職場における労働条件や働く環境を整えるための一連の業務を意味します。具体的には、労働時間の管理や給与計算、職員の健康管理、職場の安全衛生管理、ハラスメント対策などです。
労務管理は、職員が安心して働ける環境を提供し、モチベーション向上や組織の目標達成をスムーズにするために必要とされます。適切に法令を守り労務管理をすることで、トラブルの予防にもつながります。
理想的な病院経営のためには、労働基準法をはじめとした法令を守ることと、生産性を高めて効率的な業務運営を実現することの両立が不可欠です。
【労務管理に含まれる業務の例】・労働契約の締結・管理
・就業規則の作成
・安全衛生管理
・保険手続き など
病院経営において労務管理が重要な理由
病院経営では労務管理が重要といわれていますが、それには以下のような理由があります。どれも病院の評判や信頼に関わるもので、真剣に取り組む必要があるでしょう。以下で詳しく見てみましょう。
職場環境や職員の定着率に影響するため
労務管理が適切に行われていれば、職場環境が改善されて、職員が安心して働ける環境に整えられます。結果、職員から病院への信頼を得やすくなり、職員の定着率アップが期待できるでしょう。
長い目で見ると、より優秀な人材の採用や既存の職員の離職を防ぐことにつながります。経験豊富なスタッフが増えて医療の質が向上することにも役立つため、労務管理は病院の安定した経営に欠かせません。
職員間や労務上のトラブル防止に欠かせないため
職員間・労務上のトラブルを防ぐためには、労働条件が法律に則った明確なものであることと、安心して業務に専念できる環境が必要です。医療現場は勤務時間やシフトの管理が非常に複雑で、適切な管理が行われないと職員の負担が増し、ストレスやトラブルを招きやすくなります。
労務管理不足によって職員間や労務関係のトラブルが発生すると、職員は病院に対して不信感や不満を抱いてしまいます。また、病院で働くスタッフは近隣在住の場合も多いです。近隣在住の方は将来の患者さまとなりうるため、何かあったときにはお世話になりたいと思える環境づくりが大切です。
医療の質や信頼性に直結するため
適切な労務管理が行われている病院では、職員が十分に休息を取れ、働きやすい環境が整います。休むときは休み働くときは働く、メリハリのある環境が整うことで、職員の働きがいやモチベーションが高まり、高品質な医療サービスの提供につながるでしょう。
結果として患者満足度が高まり、病院は患者さんやそのご家族からの信頼獲得につながります。適切な労務管理を行うことは病院、職員、患者さんそれぞれにとって利益があります。
【項目別】病院の労務管理でやるべきこと
病院の労務管理の範囲は広く、就業規則の作成から職員の労働時間の管理、ハラスメント対策、メンタルヘルス対策といった職員の管理、職場の環境整備までさまざまです。項目ごとに具体的に行うべき内容について詳しく紹介するので、一つひとつ見ていきましょう。
自院に適した就業規則の作成
| 就業規則を作成するうえでやるべきこと |
|---|
| ・労働基準法等の法令に適した内容にする ・作成後は個々に配布したり掲示したり、職員が常時確認できるように周知を行う ・自院の実態に合った独自の「服務規律※」を用意する |
※「服務規律」とは、職員が職場で守るべきルールや義務を定めたもの。自院の実態に合わせて職場の秩序を守るために必要な規定
就業規則は、常時10人以上の労働者を雇用する使用者に作成が義務付けられています。就業規則の内容は、労働基準法などの法令に則り、かつ、自院の特性や職場環境に合っていることが大切です。
就業規則には「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」を記載する必要があり、さらに職場に合わせて「任意的記載事項」を記載します。「絶対的必要記載事項」の主な項目は、労働時間、休暇、賃金、宿日直や産休・育休などに関する規定、退職に関する事項などです。
【就業規則に記載すべき主な内容】| 必要事項 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 絶対的必要記載事項 | ・労働時間関係(始業および終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合には就業時転換に関する事項 ) ・賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期、昇給に関する事項 ・退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| 相対的必要記載事項 | ・労働時間関係(始業および終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合には就業時転換に関する事項 ) ・賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期、昇給に関する事項 ・退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| 任意的記載事項 | ・副業の取り扱いに関する事項 ・出張旅費に関する事項 など |
参考:厚生労働省「【リーフレットシリーズ労基法89条】就業規則を作成しましょう」
労働時間の適切な管理
| 労働時間の適切な管理のためにやるべきこと |
|---|
| ・勤怠ルールの周知を徹底する ・時間内に業務が終了できるように業務内容を見直す ・勤怠管理ツールを導入し正確な勤怠記録を取れるように努める |
医療従事者の働き方は交代制勤務や宿日直など多様であり、24時間患者さんを診るという仕事内容の特性からも、長時間労働や残業時間の増加などが常態化しやすい状況にあります。勤怠管理ツールの導入や、業務の見直し、正確な勤怠記録などに努めて、適切な労働時間の管理が必要です。
また、職員に対して勤怠ルールの周知を徹底したり、業務効率を向上させる工夫を行ったりして、職員の健康を守る努力も求められます。
ハラスメント対策
| ハラスメント対策としてやるべきこと |
|---|
| ・ハラスメント相談窓口を設置する ・発生したハラスメントへの迅速な対応を行う仕組みをつくる ・職員に対するハラスメント研修とハラスメントが起こりにくい雰囲気づくりを進める ・職員・患者間のハラスメントも含めた基本方針を作成する |
職場でのハラスメントは、退職率を高める深刻な要因です。職員が安心して働ける環境を整備し、優秀な人材の離職を未然に防ぐためにも、ハラスメント発生時には迅速な対応が欠かせません。
具体的には、ハラスメントに関する基本方針の作成や定期的な研修の実施、相談窓口の設置、具体的な行為を表現したポスターなどがが効果的な対策です。さらに、ハラスメントが起こりにくい職場の雰囲気づくりに取り組むのもよいでしょう。職員間のハラスメント対策だけでなく、職員・患者さん間のハラスメント対策も重要です。
メンタルヘルス対策
| メンタルヘルス対策としてやるべきこと |
|---|
| ・定期的なストレスチェックやカウンセリングを実施する ・過度な長時間労働や夜勤負担の是正、対人関係における対策を行う ・メンタルヘルス相談窓口の設置と気軽に相談しやすい環境づくりを進める |
職員のメンタルヘルスを守ることは、業務の質向上にもつながります。定期的なストレスチェックを実施することはもちろん、カウンセリングを行い、職員の健康状態を把握しておくことが有益な対策です。
また、精神的不調につながりやすい過度な長時間労働や、大きすぎる夜勤負担を是正することも求められます。さらに、職員がメンタルヘルスについて秘密が守られ気軽に相談できる窓口を設置するなどの取り組みを検討するのもよいでしょう。
働きやすい職場づくりのための工夫
| 働きやすい職場づくりのためにやるべきこと |
|---|
| ・ICT機器の導入を進め、業務効率化を図る ・育児休暇・介護休暇等を整備し、取得しやすくする ・給与・手当て等の処遇改善や福利厚生の充実を図る ・キャリアアップ支援の体制を整える |
職員にとって働きやすい職場を提供するためには、業務の効率化を図る工夫や、職員のモチベーションを高める工夫が必要です。ICT機器などの導入を進めて職員が行う業務の効率化ができれば、負担が軽減し、多くの職員にとって働きやすい職場を目指せるでしょう。
また、育児休暇や介護休暇、服飾サポートの制度を整備するだけでなく、適切に休暇や福利厚生などのサービスを利用できる仕組みづくりも重要です。さらに、働きがい向上のため、キャリアアップ支援の提供や、給与・手当て等の処遇改善、福利厚生の充実なども求められます。
医師・看護師の負担軽減体制の整備
| 医師・看護師の負担軽減体制を整備するためにやるべきこと |
|---|
| ・医師事務作業補助者や看護補助者を積極的に活用する ・夜勤看護体制を工夫する |
医師や看護師など専門職の負担を減らすための取り組みも、病院の労務管理として積極的に行うべき内容です。カルテの代行入力を行う医師事務作業補助者や、看護師の業務のサポートを行う看護補助者などを活用することで、人件費を抑えつつ医師や看護師の業務負担の分散を図れます。
また、看護師の夜勤体制を適正に管理することも重要です。看護師の配置を見直したり、夜勤中の休憩時間や仮眠時間などを適切に確保できるようにしたりするなどの工夫を行うことで、夜勤・交代勤務による負担の軽減を目指せます。
コミュニケーションの改善
| コミュニケーション改善のためにやるべきこと |
|---|
| ・定期的なミーティング、意見交換の場を設ける ・コミュニケーションスキルやリーダーシップを高める研修を行う |
職員間のコミュニケーションが円滑であれば、互いに声をかけ合うことで業務がより効率化できるでしょう。さらに、トラブルや医療ミスを未然に防ぐことにもつながります。
コミュニケーションの改善方法としては、まず、定期的なミーティングや意見交換の場を設けることです。また、コミュニケーションスキルやリーダーシップを高める研修を行うことも効果的といえます。
病院ならではの労務管理の課題
病院にとって、労務管理は医療の質や職員の働きやすさに直結する重要な要素であるため、力を入れて取り組む必要があることがわかります。しかし、実際には多くの課題が存在し、お悩みの経営者さまや管理者さまも少なくありません。
労務管理の担い手不足
病院の場合、実際に労務管理に携わる各部署の管理者などは、医師、看護師などの専門職も多いです。一般企業と異なり、本来の医業の傍ら労務管理業務を行っているケースもあります。
それぞれの日々の業務に追われていることが多く、労務管理に割ける時間が少ない傾向です。そのため、適切な対応ができなくなることもあり、労務管理の担い手不足を感じることがあるでしょう。
労務管理担当者の知識不足
労務管理を担う担当者の知識不足も課題の一つです。労務管理は法令遵守や職員の働きやすさに直結するため、専門的な知識が求められます。
しかし、労務管理担当者が行う内容は職員の採用、配置、教育、賃金、労働時間の管理、退職などとさまざまです。それぞれに関連する法律などをすべて把握するとなると、非常に多くの知識と時間が必要とされます。
職種・勤務形態が多様で管理が複雑
病院には一般企業と異なり、医師、看護師、事務職員など多様な専門職が存在しています。
それぞれの勤務形態も異なり、とくに勤務時間の管理が非常に複雑です。
また、職種ごとの専門性が高いために相互理解が不足し、職種間の連携が難しい課題もあります。このことが病院の労務管理を難しくしている一つの要因です。
働き方改革など新制度への対応の難しさ
病院の労務管理の仕事は、医師の働き方改革やタスク・シフト/シェアの推進など、時代の流れに合わせて導入される、さまざまな新しい制度に対応することが求められます。
新しい制度に適応するためには、労務管理担当者がわかっていればよいというものではなく、職員全体での理解と協力が不可欠です。
病院の労務管理を適切に進める4つのポイント
紹介したような課題がある中で、病院の労務管理を適切に進めるには、上記の4つのポイントを押さえた取り組みが重要です。日々の診療で多忙な中、なるべく効率よく進めることが求められるでしょう。詳しい方法は以下で説明します。
ITツールを導入し業務効率化を図る
勤怠管理システムやシフト管理ソフトウェアなどを活用することで、手作業によるミスを減らし管理業務の負担を軽減できます。システムの導入により、職員は本来の医療業務に集中でき、労働時間の適切な把握が可能になるでしょう。
ITツールの導入には初期投資や運用費用がかかりますが、長期的に見ればコスト削減や職員の満足度向上につながります。
【具体的なツールの例】・シフト管理ソフト
・給与計算システム
・人事管理システム
・社会保険手続きシステム など
各部署の現場管理者との連携を深める
労務管理担当者は、現場管理者との定期的なミーティングを通じて、情報の共有や意見交換を行うことが重要です。立場の異なる専門職から、現場の声を直接聞くことで具体的な課題やニーズを把握し、より適切な対策を講じられるようになります。
部署間での連携体制が整えば、労務管理の一貫性が保たれ、組織全体での取り組みが強化されるでしょう。
労務管理に関する知識を高める
最新の法令や制度についての理解を深めることで、法令違反やトラブルを防止できます。
コンプライアンスを守ることは職員の信頼を得るとともに、組織の信頼性を高めるためにも有効な方法です。
セミナーや研修を活用して、労務管理に関する知識を継続的に学びましょう。院内研修などを通して職員全員が労務に関する基本的な知識を持っていると、組織全体で労務管理の質が向上し、働きやすい環境の構築を目指せます。
労務管理の専門家に相談する
日々の診療業務に加え、新しい制度への対応などもある中、病院の労務管理をすべて自院の職員で行うことは非常に大変です。労務管理に見落としがあった場合、法令違反や訴訟リスクにつながる可能性があります。そのため、外部の専門家からアドバイスを受けることが非常に有益です。
見落としている事項の指摘にとどまらず、外部の視点から組織の課題を見直すアドバイスがもらえるかもしれません。
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