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医療・介護従事者のための
Newsコラム

医療や介護現場においての課題や話題を、各分野で活躍する第一人者へのインタビューなどを交えながら高くって気に情報を発信。ソラストが医療・介護従事者のために提供するNewsコラムです。

Top Runner
トップランナー Vol.5
2020.10.26

きちんと理解していますか?
「尊厳死」と「安楽死」

お話を伺った人:
医療法人社団裕和会 長尾クリニック
院長 長尾 和宏 氏

「尊厳死」や「安楽死」という言葉は、ニュースなどでもよく聞かれるようになりましたが、本当にその意味を理解できていますか? また、死を迎える人を前に医療や介護の現場ではどんなことができるのでしょうか。尊厳死という言葉のもつ意味やそれにまつわる社会情勢などについて、長尾和宏氏に解説していただきました。

自然な最期か人為的な最期か
言葉の意味を理解しよう

「尊厳死」と「安楽死」の違いは何でしょうか。

長尾 尊厳死は、延命治療を施さずに自然な最期を迎えることであり、安楽死は人為的に寿命を短くさせることであり、日本では犯罪とされます。

尊厳死は、自然死や平穏死といった言葉とほぼ同じ意味であり、積極的に疾患を治すための治療は行いませんが、苦痛を和らげるための充分な緩和ケアを施したうえで、死を迎える状況を表します。尊厳死を迎えるうえでは、「死期が近い」「本人が文書などで尊厳死の希望を表明している(図表)」「家族も同意している」といった状況があることが前提となります。

一方の安楽死は、本人の希望により、主治医が薬物を用いて死に至らしめることを意味します。人為的に死を招くことになるので、日本では犯罪とされる点はしっかりと理解していただきたいところです。公益財団法人日本尊厳死協会では、安楽死を認めていません。尊厳死がきちん認められたならば、安楽死は必要がないと考えるからです。なお、欧米の一部の国では、死期が差し迫っていなくても、家族の同意がなくても、安楽死は行われます。

胃ろうや人工透析などの中止は、尊厳死と安楽死の間にあたると考えられています。日本では、法律や医学会のガイドラインにより一定の条件を満たすと尊厳死と認められます。また、ホスピスなどで余命が数日以内と判断された患者さんに麻酔をかけて最期まで眠らせることがありますが、これも安楽死ではなく尊厳死です。

尊厳死や安楽死について議論をする場合、何が重要ですか。

長尾 言葉の定義を理解したうえで、議論することです。

先日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件について話題になりました。亡くなった女性が安楽死を望む発言をしていたこともあり、「安楽死の是非」といった議論が散見されました。しかし、この事件は主治医ではない医師が行った処置により死に至った殺人事件であり、そもそも安楽死に当てはまりませんし、尊厳死でもありません。マスコミ報道などでも、尊厳死と安楽死を混同していた例が見られました。言葉の定義を間違っていると、いくら語り合おうとしても議論は行き違ってしまうので、正しい知識を国民全員がもつことが大切です。

本人の意向に耳を傾けるとともに
なぜそこに至ったのかを考える

延命治療の中止などを希望する人がいた場合、どうすればいいですか。

長尾 まずはその気持ちをよく聴いてください。

医療や介護の現場では、「胃ろうをやめたい」と言われたり、「こんなに辛いのなら、無理な治療はせず、楽にしてほしい」と言われることがあると思います。また、家族もその希望を受け入れている状況に触れたこともあるかと思います。生きることはもちろん大切です。しかし一方で、「人工呼吸器をつけてまで生きるくらいなら死を考える」といった人が現実にいるということも、知っておくべきことでもあります。ALSに限らず、誰もが自分の死に関して希望を述べる権利はあると思います。その気持ちに耳を傾けることが、まずは求められます。

延命治療の中止などを希望する人に対して、医療・介護従事者は何もできないのでしょうか。

長尾 傾聴と対話を繰り返すことで、本人の気持ちに寄り添うことができます。

本人の声にじっくり耳を傾け、次に家族も交えて傾聴することが大切です。本人がそのような思いを抱いた理由や、本人が苦しいと思っている状況にあることを共有します。結論を求めるのではなく、理解をする過程が大切です。その対話を繰り返していく中で、苦しみを解決する方法が見つかるかもしれませんし、本人の気持ちが変化していくこともあります。こうした対話の繰り返しこそが人生会議がめざすものです。

その際、本人が置かれている状況を理解することも大切です。たとえばALS患者は徐々に食べることができなくなり、最終的に胃ろうや人工呼吸器をつけるかどうかの選択を迫られます。日本のALS患者のうち、3割の人が人工呼吸器をつけ、残り7割の人が人工呼吸器をつけないことを選んでいると言われています。つまり、人工呼吸器をつけずに最期を迎える人のほうが多いのです。こうしたALS患者の実情を理解していないと、「人工呼吸器をつけない選択をしたということは、死を望んでいるからだ」「人工呼吸器をつけないのは、医療では手を尽くせない状況になったからだ」という誤った解釈をする恐れがあります。

上記のようなかかわり方をするうえで、医療・介護従事者が身につけておくとよいことはありますか。

長尾 「延命倫理」や「臨床倫理」を医療者と同じ土俵で学ぶとよいですね。

患者から訴えがあったときに、どう対処すべきかがわかるようになります。また、米国で作られた「バイタルトーク(VitalTalk)」という、医療コミュニケーショントレーニングも活用できると思います。新型コロナウィルスのためのバイタルトークは、ネットで日本語版も見られます。ぜひ練習してみてください。

「死」は誰にでも訪れることで、医療の問題というよりも、人間みんなの問題です。特に介護の現場では、看取りを行うこともあり、死について考える機会も少なくありません。終末期の議論は介護に携わる方から、風穴を開けてほしいとも考えています。

(提供:株式会社日本医療企画)
以上

図表 出典:日本尊厳死協会HPより
尊厳死を希望する際の文面案
https://songenshi-kyokai.or.jp/living-will