宿日直許可とは?取得の利点や条件・申請の流れを医療機関経営者向けに解説
宿日直許可とは、労働基準監督署長の承認を得ることで、宿直義務を果たしながらも労働時間には算定されない制度です。許可を取得することで医師の働き方改革に対応し、人件費削減や採用強化が期待できます。今回は、宿日直許可とは何かを踏まえ、医療機関経営者が得られるメリットや取得に必要な条件、申請手続きなどについて解説します。
宿日直許可とは
宿日直許可とは、労働基準監督署長の承認を得ることで、通常業務ではない監視や断続的労働に従事する時間を労働時間として算定しない制度です。
医療法上の宿直義務を果たしながら労働時間規制の対象外となるため、医師の働き方改革の推進や採用力の強化など、病院経営において多くのメリットをもたらします。
今回は、宿日直許可が経営にもたらす具体的な利点について、詳しくみていきます。
参照:e-GOV法令検索「医療法(昭和二十三年法律第二百五号)」
参照:東京労働基準局監督課「2022 医療機関における宿日直の許可について」
宿日直許可を取得する利点【医療機関経営者向け】
宿日直許可の取得は、法律上の義務を果たすだけでなく、病院経営において「コスト削減」と「人材確保」という2つの大きなメリットをもたらします。ここでは、経営者視点で具体的な利点を解説します。
労働時間にカウントされず人件費の削減につながる
宿日直許可を取得すれば、待機時間は労働時間とみなされないため、時間外割増賃金の支払いが不要となり、人件費の大幅な削減が可能です。
そのため、人件費を適正化しつつ、経営の健全化を図れる点が大きなメリットとなります。
ただし、支払いが一切なくなるわけではなく、基準額以上の宿日直手当の支給や、実働が発生した際の深夜手当などはかかる点に注意しましょう。
医師の採用競争力を強化できる
2024年の働き方改革で医師の時間外労働に上限が設けられ、収入減を懸念する医師が増えています。
許可のある宿日直は労働時間のカウント対象外となるため、上限規制を気にせず収入を確保したい医師にとって魅力的でしょう。そのため、常勤の傍らでアルバイトを希望する医師からの応募が集まりやすくなり、採用競争力を大きく強化できます。
2024年4月から、医師の働き方改革により、これまで上限がなかった勤務医の労働時間に上限が設けられました。労働時間の制限は、宿日直の勤務時間も対象です。
医療機関経営者には、医師の働き方改革によるルール改変に伴い、新たに医師の労働時間の管理が求められました。医師の時間外・休日労働時間の上限とその理由は下記の通りです。
| 水準 | 年の上限時間 | 理由 |
|---|---|---|
| A水準 | 960時間 | 臨時的に長時間労働が必要な場合の原則的な水準 |
| 連携B水準 | 1860時間(各院では960時間) | 地域医療の確保のため、派遣先の労働時間を通算すると長時間労働となるため |
| B水準 | 1860時間 | 地域医療の確保のため |
| C-1水準 | 1860時間 | 臨床研修・専攻医の研修のため |
| C-2水準 | 1860時間 | 高度な技能の修得のため |
参照:厚生労働省「医師の働き方改革〜患者さんと医師の未来のために〜」
宿日直許可を取得するために満たすべき条件
・通常業務が完全に終了した状態から開始される
・宿日直業務の範囲を著しく超える状態がほぼ発生しない
・宿日直手当の支給や宿日直の上限回数が守られている
・睡眠がしっかりとれる設備がある
宿日直許可を取得するためには上記のような条件を満たしている必要があります。以下で具体例について説明していきます。
ほとんど業務がなくしっかり睡眠がとれる
宿日直許可は、宿日直中にほとんど労働する必要がなく、しっかり睡眠時間を確保できる状態であることが大前提です。宿日直の目的は、労働者を事務所に待機させ、電話対応や定期巡回、緊急時の対応を行わせることであるため、緊急時以外は、業務を行わない状態が望ましいといえます。宿日直勤務で行う業務としては、下記のようなものがあげられます。
・緊急時の電話対応
・定時巡回
・少数の急変者対応
通常業務が完全に終了した状態から開始される
宿日直許可の前提条件として、宿日直開始前に通常業務が終了している必要があります。これは、宿日直が通常業務の延長として扱われないようにするためです。そのためには、通常勤務と宿日直の間に空き時間を作り、通常の勤務時間と同じような業務を継続して行わないような体制にするのが望ましいでしょう。
・救急病院で患者への治療がほぼ毎回、複数回発生するようなケース
・始業または終業時刻に密着して行う監視または断続的な労働
宿日直業務の範囲を著しく超える状態がほぼ発生しない
宿日直は本来、稀にある緊急時の対応や定期的な巡視を目的にしているものです。
ただし、突発的に宿日直業務の範囲を超える業務を行う必要がある日もあります。このような日が稀にあってもただちに宿日直許可が取り消されるわけではありませんが、日常的にある場合は本来の制度の目的から逸脱してしまうため、宿日直許可が取り消されることもあります。
・少数の要注意患者の状態変動に対応するため診察、指示をすること
・非輪番日などの休日、夜間において少数の外来患者の状態変動に対応するため診察、指示をすること
宿日直手当の支給や宿日直の上限回数が守られている
宿日直勤務には、宿日直手当として1日の平均賃金の1/3を下回らない金額を支給すること、宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を上限にすることが定められています。管理者は宿日直許可のためだけではなく、労働者に過度な負担がかからないようにするためにも、宿日直手当の支給額と宿日直日数のルールを遵守しなくてはいけません。
| 宿日直の手当 | 宿日直の上限回数 |
|---|---|
| 事業場において同種の労働者の1日の平均賃金1/3を下回らない金額 | 宿直勤務…週1回 日直勤務…月1回 |
睡眠がしっかりとれる設備がある
宿日直許可は、宿日直中は休息できることを大前提としています。そのためには、しっかり睡眠がとれる環境を備えていることが許可の重要なポイントです。緊急時に適切に対応できるだけでなく、労働者の健康を守ることも宿日直許可の取得において重視されています。
宿日直許可の申請手続きと必要書類
宿日直許可の申請をするにあたって必要なことは、以下のようなものです。必要書類についても一例をあげて説明します。
宿日直許可を申請する前の確認事項
宿日直許可を申請する前には、確認するべき事項がいくつかあります。たとえば、宿日直中に対応する業務が法律の定めている業務の範囲におさまっているか、夜間に十分な睡眠が取れる業務か、睡眠可能な設備があるか、などです。
以下のチェックリストを活用し、申請できる状況なのか確認してみましょう。
・申請を考えている宿日直中に従事する業務は、通常業務とは異なる、軽度または短時間の業務である
・申請を考えている宿直業務は、夜間に十分な睡眠がとり得るものである
・ベッド・寝具など睡眠が可能な設備がある
・申請を考えている宿日直業務は、通常業務の延長ではなく、通常の勤務時間の拘束から完全に開放された後のものである
・始業・終業時刻に密着して行う短時間の業務態様ではない(4時間未満ではない)
・救急患者の診療等、通常業務と同態様の業務が発生することがあっても、稀である
・実際の宿日直勤務の状況が上記の通りであると医療機関内で認識が共有され、そのように運用されている(宿日直の従事者の認識も同様である)
宿日直許可の申請から取得までの流れ
1.労働基準監督署に申請書を提出する
2.労働基準監督署の実地調査を受ける
3.許可証が交付される
宿日直許可を取得するには、大きく分けて上記の3ステップです。
まずは労働基準監督署に申請書を提出し、書類審査を受けましょう。書類上問題がなければ、後日労働基準監督署が訪問し、実地調査を受けます。許可基準を満たしていると判断されれば、「断続的宿直又は日直勤務許可証」が交付されます。
宿日直許可の申請に必要な書類一覧
宿日直許可の申請には、宿日直勤務の実態を把握できる詳しい資料を提出する必要があります。宿日直の勤務状況をはじめ、宿日直当番表や日誌、仮眠室や待機室の図面や写真、宿日直勤務者の賃金一覧など、用意しておきましょう。必要となる資料は施設の状況によって異なるため、事前に所轄の労働基準監督署に相談してください。
・宿日直当番表
・宿日直日誌や急患日誌等
・宿日直中に従事する業務内容
・業務内容ごとの対応時間が分かる資料(電子カルテのログや急患日誌等を基に作成)
・仮眠室等の待機場所が分かる図面および写真
・宿日直勤務者の賃金一覧表
・宿日直手当の算出根拠が分かる就業規則等
・対象労働者の労働条件通知書、雇用契約書の写し
・巡回業務がある場合は巡回場所全体とその順路を示す図面等
宿日直許可の申請に関する2つの注意点
宿日直許可の申請が通らないケース
・宿泊設備に不備がある
宿日直許可は、通常業務と同じような業務内容ではなく、特殊の措置を必要としない軽度な業務で、しっかりと休息が取れることが前提となっています。対応が発生する回数が多く、通常業務を行わなければいけない場合は、夜勤と同じ扱いになってしまいます。
また、勤務中に休息をとることが前提とされているため、宿泊設備が不十分だと申請が通らない場合もあります。
宿日直許可が取り消しになるケース
・十分な睡眠時間が確保できていない
・許可された軽微な業務以外の労働を行っている
・労働基準監督署が定めた勤務回数などの条件を守っていない
許可取得後であっても実態が要件を満たしていないと判断されれば、許可は取り消されます。とくに救急対応が頻発し睡眠が取れていない場合や、通常の勤務と同等の業務を行っている場合は注意が必要です。
経営を守るためにも、実態が申請内容と乖離しないよう継続的な管理が求められます。
宿日直許可取得後に基準を守れなかった場合のペナルティ
宿日直許可取得後に業務や施設の面で基準を遵守できなかった場合には、法律に基づいて罰則や行政指導、許可の取り消しが行われる可能性があります。とくに宿当直中に通常業務と同等の業務を行った場合には、労働基準法の労働時間としてカウントし、通常の賃金を支払う必要がある点には注意しましょう。
A.業務に関しては、緊急時対応が常態化していなければ問題ないこともあります。
宿直中に突発的な救急対応が発生しても、稀な頻度であり十分な睡眠が確保できていれば、許可は取り消されません。重要視されるのは緊急対応が常態化していないかという点であり、日常業務と同等の診療が頻発する場合は、許可要件を満たさないと判断される恐れがあります。
経営者が知っておきたい!宿日直と他の労働時間制度の違い
| 業務名 | 労働時間かどうか | 業務内容の違い | 勤務回数に制限あり |
|---|---|---|---|
| 宿日直 | 休息時間 | 待機業務 | 休息時間 |
| 宿日直 | 休息時間 | 待機業務 | 休息時間 |
| 深夜勤務 | 労働時間 | 通常業務 | 深夜手当あり |
| オンコール | 原則、労働時間ではない | 自宅待機、呼び出し応需 | 呼出時の実働のみ労働時間(待機手当あり) |
宿日直許可を受けた業務と、時間外労働や深夜勤務との最大の違いは「労働時間」に含まれるかどうかです。
時間外労働や深夜勤務は、通常の業務を行うため労働時間にカウントされます。対して宿日直は、緊急時に備えた待機業務であり、十分な睡眠や休息が取れることが前提のため、労働時間には含まれません。
また、深夜勤務は睡眠を前提としませんが、宿日直では睡眠設備の設置が必要です。
宿日直と同様に待機業務として扱われるものに、オンコールがあります。これらは、待機場所が自宅であること、通常業務が発生し対応した時間は労働時間として扱われるという点が異なるでしょう。
宿日直を適正運用し、経営メリットを最大化しよう
宿日直許可とは、基準を満たすことで労働時間規制の適用外となる制度です。医師の働き方改革が進む中、許可取得は人件費の適正化や採用力強化といった経営上の大きなメリットをもたらします。
一方で実態が基準と乖離すれば許可取り消しや割増賃金の支払いリスクもあるため、法令を遵守した厳格な運用管理が不可欠です。
最適な労務管理や業務効率化については、専門家のサポートを活用するのも有効です。
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