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地域包括ケアシステムとは?目的・具体例や推進のための取り組みを簡単解説

公開日/2025.09.08 更新日/2025.09.08

地域包括ケアシステムは、少子高齢化が課題の日本で今後さらに重要であると考えられています。「住み慣れた地域で、できる限り自立した生活を続けたい」と願う人は少なくありません。この記事では、地域包括ケアシステムとは何か、目的や具体的なサービス事例、推進のための取り組みについて、解説します。

地域包括ケアシステムとは

引用:「地域包括ケアシステム」

地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしく生活できるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援を包括的に提供する体制

地域包括ケアシステムとは、各地域がさまざまな支援を一体的に提供できる体制を整えるための仕組みです。介護が必要な高齢者も、今まで暮らしてきた地域で最後まで自分らしく生活が続けられるように、医療や介護、予防、住まい、生活支援の各サービスをおおむね30分以内に提供できるようにすることを目標にしています。2025年を目標に全国での構築が進められてきました。

個別の支援が単独で機能するのではなく、在宅医療や訪問介護、地域密着型サービスなどが連携し、地域全体で高齢者を支える仕組みが整備されている点が特徴です。今後ますます重要性が高まる地域主導のケアモデルといえます。

【厚生労働省による地域包括ケアシステムの定義】
重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される体制

参考:「地域包括ケアシステム」(一部表現を変更して記載)

地域包括ケアシステムの目的と役割

・高齢者の尊厳ある自立した生活の支援
・医療・介護・生活支援の切れ目ない連携
・地域住民や多職種による支え合いの仕組みづくり

医療や介護、生活支援などが単独で機能する体制のままでは、要介護状態になった方は住み慣れた地域や自宅を離れて生活しなくてはいけないケースも多いです。どのような高齢者であっても尊厳を守り、その人がその人らしく暮らし続けられる環境を整えるために、地域包括ケアシステムの構築・整備が進められています。

医療や介護、住まい、生活支援などの各サービスが互いに連携・協力できれば、個々の状態や希望に応じた柔軟なサービスの提供が可能です。

単なる制度やサービスの提供ではなく、地域の多職種や住民が協力し合い、高齢者を地域全体で支える仕組みをつくることが必要とされます。高齢者本人の尊厳や生活の質(QOL)を尊重した支援体制の確立が求められています。

地域包括ケアシステムの現状と課題

・多職種連携の体制整備が未成熟である
・地域間でサービス内容や提供体制に差がある
・人材・財源の確保が行き届いていない地域もある

地域包括ケアシステムの構築は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目標に進められてきましたが、想定通りには整備が進んでいないのが実情です。とくに、医療・介護・生活支援の多職種連携が不十分で、関係機関同士の情報共有や連携体制の構築に課題があります。

また、地域によっては担い手となる人材が不足しており、サービス提供体制に格差が生じているのも問題点です。さらに、財源確保も大きなボトルネックとなっており、制度の持続可能性が問われています。

地域包括ケアシステムの構築・推進が求められる背景

地域包括ケアシステムの構築・推進が求められる背景について解説します。どのような事情があるのかを理解しておくことも重要です。
・少子高齢化の進行
・医療・介護資源の地域偏在
・本人の「住み慣れた場所で暮らしたい」という希望

地域包括ケアシステムの推進が求められる背景には、少子高齢化の急速な進行があります。とくに後期高齢者の増加や、将来的に認知症高齢者の増加が見込まれる中で、高齢者一人ひとりの生活課題も多様化・複雑化しているのが現状です。

さらに、地域によって高齢化の進行度合いや医療・介護資源の充実度に差があるため、全国一律の制度では対応が困難とされています。今後は「医療」「介護」「住まい」「生活支援」などが複合的に求められるケースが増えることから、地域の実情に応じた包括的な支援体制の整備が急務です。

地域包括ケアシステムを構築・推進する利点

・年齢を重ねても住み慣れた地域で暮らし続けられる
・要介護度や認知症の有無に関わらずその人らしく暮らせる
・高齢者の社会参加の促進を目指せる
・介護に携わる家族に対してのサポートも手厚くできる

地域包括ケアシステムが適切に整備・機能することで、医療や介護、生活支援などの関係機関の連携が深まり、利用者にとって必要な支援をスムーズに提供できるようになります。

また、地域全体で健康づくりや予防医療に取り組む体制が整えば、高齢者の介護予防や社会参加の機会の増加にも役立ち、医療・介護費の抑制にもつながるでしょう。

さらに、住民同士の支え合いや地域づくりが促進されることで、孤立の防止や地域コミュニティの活性化といった副次的な効果も期待されます。

地域包括ケアシステムを構成する要素

地域包括ケアシステムは、複数の要素で構成されています。以下で、一つひとつ見ていきましょう。

5つの構成要素

構成要素 特徴
医療 ・日常の診療をかかりつけ医等で、急変時や入院が必要な際は急性期病院等で対応する体制
・在宅医療や訪問診療など、住み慣れた場所で医療を受けられる体制も必要
介護 ・訪問介護やデイサービスなどを通じて、日常生活の支援を提供
・要介護者の自立支援と家族の介護負担軽減を目指す
住まい ・自宅やサービス付き高齢者向け住宅など、安心して暮らせる住環境を確保
・高齢者の住み替え支援やバリアフリー化も含まれる
生活支援 ・買い物代行、見守り、移動支援など、日常生活を支えるサービスを提供
・地域のボランティアや民間サービスの活用も含まれる
予防 ・フレイル予防や健康づくり、介護予防教室などで心身の機能低下を防ぐ
・地域住民の主体的な参加と継続的な取組が重要

地域包括ケアシステムは、「医療」「介護」「住まい」「生活支援」「予防」の5つの要素から構成されています。それぞれの要素が相互に機能を補完し合い、地域全体で高齢者を支える体制を構築することが必要です。

たとえば、在宅医療と訪問介護が連携することで住み慣れた自宅での生活を支え、予防や生活支援により要介護状態の進行を防げます。これらのサービスが単独ではなく一体となって機能することで、より効率的で持続可能な支援が実現されます。

4つの助

構成要素 特徴
自助 ・本人による自立した生活努力
・健康維持や貯蓄、生活習慣の改善などが含まれる
互助 ・地域住民や近隣同士による助け合い
・見守り活動やボランティア、自治会などによる支援
共助 ・保険制度や地域団体など、制度化された助け合い
・介護保険や医療保険を通じた支え合いの仕組み
公助 ・買い物代行、見守り、移動支援など、日常生活を支えるサービスを提供
・地域のボランティアや民間サービスの活用も含まれる
予防 ・国や自治体など公的機関による支援
・生活保護、福祉サービス、行政による制度的サポート

地域包括ケアシステムを支える基本的な考え方として、「自助」「互助」「共助」「公助」の4つの要素があります。自分自身の努力によって健康を維持し(自助)、近隣住民やボランティアとの助け合い(互助)で日常生活を支えます。

さらに、介護保険や医療保険といった制度に基づく相互扶助(共助)、そして、セーフティネットとして行政の支援(公助)が機能することで、多層的で持続可能な支援体制が実現可能という考え方です。

地域包括ケアシステムの具体的な取り組み事例

ここでは、地域包括ケアシステムの具体的な取り組み事例について解説します。実際にどのような取り組みが行われているか確認しておきましょう。

東京都世田谷区の取り組み事例

世田谷区では、区を5つの地域に分けて、それぞれに総合支所を設置しています。5つの区はさらに中学校区単位である27の日常生活圏域に分割されており、定期巡回訪問介護・看護や認知症支援に加え、高齢者が生涯現役で活躍できるネットワークを整備しています。

地域包括支援センターを中心に、NPOや大学、自治体など約70団体が連携し、地域資源を最大限に活用した実践的な支援体制を構築しているのも特徴です。また、多職種や施設が定期的に連絡し、現場の課題を共有・調整する体制も整えられています。

埼玉県川越市の取り組み事例

川越市では「コミュニティケアネットワーク」を医師会と連携して構築し、在宅医療拠点センターを設置しています。また、生活支援コーディネーターを配置し、相談支援やケアマネジメントを強化しているのも特徴です。

加えて、訪問型・通所型の介護予防サービスや認知症対策(家族教室、オレンジカフェ、介護マーク配布等)を多面的に展開しています。さらに、地域の担い手育成やフォーラム開催も行い、住民主体・多職種協働による総合ケア体制を進めている段階です。

参考:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

医療機関経営者に求められる取り組みは?

・病床の機能分化
・地域包括ケア病棟の導入
・多職種連携の強化
・介護サービスとの連携強化
・かかりつけ医機能・在宅医療の強化
・在宅医療と介護連携の推進
・医療DXの推進 など

地域包括ケアシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に構築を目標とされてきましたが、現状、想定通りの整備は進んでいません。さらに今後は、団塊ジュニア世代が高齢化する2040年を見据えた対応も求められます。

具体的な取り組みとして、病床を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つの機能に分けて、各医療機関が相互に連携する体制を整えることが挙げられます。病床の機能分化によって必要な病床数を確保できるうえ、医療サービスの効率化や質の向上に役立つでしょう。

また、病床の機能分化と合わせて、地域包括ケア病棟の導入も有効です。一般病床と異なり、患者さんの日常生活動作を向上する目的があるため、退院後の自宅に戻った患者さんの状態を見据えたケアを可能とします。

その他、医療と介護の複合的なニーズが高まる中で、医療機関には介護事業者との連携強化や、かかりつけ医機能・訪問看護・在宅医療の提供体制の充実も求められます。さらに、多職種との協働や地域住民との関係構築、ICTを活用した情報共有の仕組みづくりなど、地域全体を見据えた経営視点が重要になっていくでしょう。

地域包括ケアシステムの整備を進め、誰もが安心して暮らせる社会に

地域包括ケアシステムは、高齢者が自分らしく暮らし続けるために、医療・介護・住まい・予防・生活支援を一体的に提供する仕組みです。2025年を目標に整備が進められてきましたが、未だ十分な構築はできておらず、さらに2040年に向けた体制の強化も必要とされます。医療機関をはじめ、地域全体での連携と支え合いの仕組みを深化させることが、誰もが安心して暮らせる社会の実現のために重要です。

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著者プロフィール

著者:ソラストオンライン
医療事務コラム執筆担当
医師や医事課のみなさまをはじめとする医療従事者の皆様に、お役立ち情報を発信しています。

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