【簡単解説】医療法人とは何?設立のメリットや注意点をわかりやすく!


医療法人とは、病院や診療所、介護老人保健施設の開設を目的とした法人のことです。医療法人化するメリットや注意点、医療法人化をすべきかどうかを判断するポイントについて、詳しく解説します。また、医療法人化する流れや必要な手続きについても紹介していますので、医療法人化を検討している経営者の方はぜひ、ご覧ください。
医療法人とは何?
介護老人保健施設の開設を目的に設立された法人
医療法人とは、病院や常勤の医師・歯科医師がいる診療所、介護老人保健施設又は介護医療院の開設を目的とした法人です。医療法第39条の規定にもとづき、設立されます。
医療は生命や健康を支える重要な事業であり、営利目的ではない法人が必要という勘案を受け、昭和25年に「医療法人」という法人類型が誕生しました。これにより医療法人化することで、非営利であっても資金の集積がしやすくなり、医療機関の経営の困難さが緩和されています。
医療法人制度の役割・目的
医療法人は、提供する医療の質の向上を目指し、地域における医療の担い手としての役割を果たすことが求められています。具体的には、地域住民の信頼を集め、公平かつ質の高い医療サービスを提供することです。そのために、自ら積極的に運営基盤を強化し、財務や運営の透明性を確保することが必要となるでしょう。
医療法人と個人医院の違い
医療法人 | 個人医院 | |
---|---|---|
開設手続き | 都道府県知事の認可が必要 | 各種の届け出のみ |
登記 | 設立認可後、法務局で法人登記が必要 | 登記手続きは不要 |
業務の種類 | 病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院 | 病院・診療所 |
開設できる数 | 分院や関連施設を設置可能 | 1か所のみ |
事業年度 | 定款で事業年度を定める | 1月1日~12月31日 |
決算書の提出 | 定款で事業年度を定める | 1月1日~12月31日 |
税金 | 法人税(比例税率、最大税率23.2%) | 所得税(累進課税、最大税率45%) |
社会保険 | 従業員数に関わらず、加入義務あり | 従業員5人以上で加入が必要 |
役員報酬 | 定款で規定し、頻繁には変更できない | 自由に決定 |
個人医院は医師個人が経営し、迅速な意思決定が可能です。収入は経営者のものとなり、法人税の負担はありません。ただし、経営者個人にすべての責任が集中します。
一方、医療法人は法人格を持ち、設立には、都道府県知事の認可が必要です。得た収入はすべて法人の管理下に置かれますが、責任は法人が負うことになります。分院や介護施設の設立が可能な点が、個人医院と異なるでしょう。
それぞれに利点と義務があり、経営の安定性や将来性を考慮した選択が求められます。
医療法人と株式会社の違い
医療法人 | 株式会社 | |
---|---|---|
設立の目的 | 地域医療への貢献や医療サービスの質の向上 | 営利活動 |
事業内容 | 医療事業または医療関連事業 | 医療事業以外の事業も展開可能 |
資金の自由度 | 制限される | 自由度が高い |
税金 | ・法人税だが税率が固定 ・特定医療法人や社会医療法人なら税制優遇措置が受けられる |
法人税、消費税など一般的な税率が適用される |
後継者の条件 | ・原則として医師又は歯科医師である必要あり ・持分の定めのない医療法人なら、相続税、贈与税の負担なし |
・特定の資格は不必要 ・相続税、贈与税が発生 |
医療法人と株式会社との大きな違いは、組織の目的や利益の配分方法にあらわれます。医療法人は公益性を重視し、得た利益を医療サービスの充実のために再投資を行うなど非営利的です。一方、株式会社は利益追求を目的とし、得た利益は株主に配当されます。
また、医療法人は医療法にもとづき設立され、地域のニーズに応じた医療または医療関連事業に特化しています。一方、株式会社は業務の自由度が高く、多岐にわたる事業を展開することが可能です。
医療法人の類型

社団医療法人 | 財団医療法人 | |
---|---|---|
定義 | 複数の個人が共同で設立し、出資者が法人運営に関与する法人形態 | 個人や法人からの寄付財産を基盤に設立される法人形態 |
種類 | ・社会医療法人 ・特定医療法人 ・その他の医療法人 ・基金拠出型医療法人 |
・社会医療法人 ・特定医療法人 ・その他の医療法人 |
実は、医療法人はさまざまな類型があることをご存じでしょうか。ここからは出資方法や医療法・税法によって分けられる医療法人の類型について解説していきます。
社団医療法人
社団医療法人は、複数の個人が共同で設立する法人形態です。主に医師や医療従事者が、出資者となります。
個人や外部からの資金調達が容易なため、設立ハードルが比較的低い点が特徴です。運営の基本事項は、あらかじめ定められた「定款」に基づき決定されます。
団医療法人が解散する際には、残余財産は医療法の定めにもとづいて処分され、分配されることはありません。ただし、出資持分あり医療法人のみ、残余財産の分配が認められています。
財団医療法人
財団医療法人は、個人や法人から寄付された財産を基盤に運営される法人形態です。その運営の基本事項は、「寄附行為」と呼ばれる基本規約で定められています。寄附された財産は法人が所有するため、資金運営が安定している点が特徴です。
解散時には、財産は医療法に従い、公益目的に使われます。その管理のため、国や地方自治体など限られた期間に引き継がれることもあるでしょう。
医療法・税法にもとづく医療法人の類型
類型 | 特徴 |
---|---|
社会医療法人 | 医療法を根拠とし、公共性の高い医療活動を行う |
特定医療法人 | 租税特別措置法を根拠とし、税法上の特典を受けられる |
持分なし医療法人 | 出資者に持分が存在せず、利益は法人に帰属する |
基金拠出型医療法人 | 持分なし医療法人の一種で、基金制度を利用して資金調達を行う |
持分あり医療法人(※) | 出資者に持分があり、利益配分や財産分配の権利が存在する |
出資額限度法人(※) | 出資額を上限とする分配条件を定めている |
※平成19年4月1日医療法改正以降、新設不可
社会医療法人
社会医療法人は、公益性の高い医療を提供することを目的とした法人で、社団法人・財団法人どちらの形態でも設立ができます。地域医療や救急医療、災害医療など公共性の強い事業を担うことが特徴です。
また、得た利益は公益目的に再投資されるなど、地域社会への貢献を重視しています。
特定医療法人
特定医療法人は、公益性の高い医療を提供している医療法人に対し、特別な税制優遇を与える法人を指します。租税特別措置法を根拠としており、社団法人・財団法人いずれの形態でも設立可能です。
高い公益性を守るために、認可には厳しい条件が課されます。具体的には、必要以上に利益を追求しない、親族に利益を与えないことの2点です。
持分なし医療法人
持分なし医療法人は、社団医療法人の一種で、持分に関するルールを設けず、持分自体が存在しない法人です。持分とは、定款に定められた事項に従って、出資額に応じて払戻しや残余財産の分配を受ける権利を指します。
しかし、持分なし医療法人はこの権利がないため、出資者は解散時などに財産の返還を求めることができません。その代わり、出資者自身に対する相続税や贈与税がかからず、経営の安定性が高いことが特徴です。
基金拠出型医療法人
基金拠出型医療法人は、持分なし医療法人の一つで、資金調達手段として基金制度を利用している法人です。出資者は資本金の代わりに基金を拠出し、解散時に出資額が返還される仕組みになっています。
平成19年4月1日施行の医療法改正で新設された類型で、この後に医療法人を新設する場合は、基金制度を利用した形態が一般的になっていると思われます。
持分あり医療法人・出資額限度法人
持分あり医療法人は、社団医療法人のうち定款で持分規定を設け、出資者が払戻しや財産分配の権利を持つ法人形態です。一方、出資額限度法人は、社団医療法人のうち、定款で社員資格を喪失した際の払戻額や解散時の残余財産の分配額について払込出資額を限度とすることを定めている法人形態です。
平成19年4月1日の法改正により、いずれの法人も新設は認められなくなりました。
医療法人化する4つのメリット
個人医院から医療法人に移行することにより、どのようなメリットがあるのでしょうか。医療法人化することで得られる、主な4つのメリットについて詳しく説明します。
社会的信用度を高められる
医療法人は、都道府県知事の認可を受けて設立されるため、個人医院よりも社会的信用度を高めることができます。この信用度の向上により、地域社会や患者からの信頼を獲得しやすくなります。
また、医療法人化することで、金融機関からの融資審査にもよい影響を与えられるでしょう。融資を受けやすくなり、高品質な医療機器の導入や施設の充実を図りやすくなる可能性があります。
事業規模の拡大がしやすい
個人医院といった個人事業主の場合、運営はクリニック(病院)1カ所のみと法律上定められています。しかし、医療法人化すると複数の施設を設置することが可能です。
たとえば、分院や介護施設といった関連事業を新たに設置できます。融資が受けやすくなっているため、事業の成長と地域医療への貢献を推進しやすくなります。
節税効果を得やすい
個人事業主の場合、所得税は累進課税制度に従って課税され、最大45%の高い税率となります。一方、医療法人では法人税が課されるため、税率は最大でも23.2%です。
このため、利益が多い場合は節税効果が期待できます。また、個人事業主がクリニックを次世代に引き継ぐ際には相続税が発生しますが、医療法人では相続税がかかりません。
運営や後継での節税の仕組みにより、医療法人は長期的に安定した経営を行いやすくなります。
安定した待遇を提示でき、採用活動で有利に働きやすい
医療法人では、働く職員の社会保険や厚生年金の支払いが必須です。これにより、求職者は「社会保険をしっかりかけてもらえる」という安心を感じ、大きな魅力となります。
そのため、医療法人は採用活動において有利になり、優秀な人材を確保しやすい環境を作ることができます。さらに、職員に安定した待遇を提供することで、職場全体の信頼感や働きやすさも向上します。
医療法人化する4つのデメリット・注意点

医療法人化による様々なメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点も伴います。デメリットや注意点を十分に理解した上で、計画的に法人化を進めることが大切です。ここでは、主なデメリットとその注意点について解説します。
運営管理や各種手続きが煩雑になる
医療法人は、個人事業主に比べて、手続きが多く煩雑になりがちです。たとえば、定款・寄附行為の作成や開設に伴う諸手続き、決算後の事業報告書の作成、法人税の申告など、本来の業務以外の作業が増えます。
さらに、これらの手続きを専門家に依頼する場合、その費用も必要です。そのほか、経営と個人資産が分離されることにより、経営の自由度が制限される恐れもあります。
社会保険と厚生年金への加入が必須になる
医療法人では、社会保険と厚生年金への加入が義務付けられています。これにより、職員の福利厚生が充実し、求職者にとっては魅力的にみえるでしょう。
しかし、法人側は社会保険料や年金負担が増えるため、運営コストが上昇してしまいます。従業員数が増えるほど負担も大きくなるため、小規模のクリニックでは、経済的な負担となってしまうでしょう。
利益の配分方法に制約がある
医療法人は、剰余金の配当が認められておらず、得た利益や資金は「法人」に帰属します。そのため、得た利益は医療サービスの充実や施設の改善、職員の給与など法人内での再投資に充てられ、余剰金は内部留保金として積み立てなければなりません。
また、法改正により、出資持分のある形態で新たに医療法人を設立することはできなくなりました。
再度個人医院に戻ることが難しい
医療法人化した後に個人医院へ戻ることは、法的手続きが複雑で負担が大きいため現実的ではありません。法人を解散させる手続きが、設立よりも煩雑だからです。
そのため、医療法人化を検討する際は、長期的な視点と慎重な計画が求められます。法人化のメリットとデメリットをよく理解し、十分に検討することが重要です。
医療法人化すべきかどうか判断するポイント【医療機関経営者向け】
医療法人化が適しているケース | 医療法人化が適していないケース |
---|---|
・事業規模の拡大を目指している ・事業継承をスムーズに行いたい ・税制面でのメリットを享受したい |
・複雑な運営管理ができない ・事業拡大を想定していない ・社会保険や厚生年金の加入義務が負担 |
医療法人化するかどうか判断するには、いくつかのポイントがあります。ポイントを見極めて適切に判断しましょう。医療法人化が適している3つのケースと医療法人化が適していない3つのケースについて、それぞれ解説します。
医療法人化が適しているケース
・事業継承をスムーズに行いたい
・税制面でのメリットを享受したい
医療法人化は、事業規模の拡大を目指している場合や、自分の子などへ事業継承をよりスムーズにしたい場合に適しています。また、税制面でのメリットを活用したい場合にも医療法人化が向いています。
とくに、年間の事業所得が1,800万円を超えて累進課税が40%となる場合や、年間の社会保険診療報酬が5,000万円を超えた場合(実額経費より多く経費計上ができる概算経費が使えなくなる)が医療法人化のタイミングをいわれているでしょう。
医療法人化が適していないケース
・事業拡大を想定していない
・社会保険や厚生年金の加入義務が負担
医療法人化すると、運営管理が複雑になります。そのため、運営管理業務で経営資源を圧迫する可能性がある場合には適していません。
また、事業規模の拡大を想定していない場合も、法人化のメリットを活かせないため、あまり向いていません。さらに、医療法人化は社会保険や厚生年金への加入義務が生じます。そのため、運営費が増大するリスクもあるでしょう。
これらの要因から、医療法人化が適切な選択とは限らない場合があります。
医療法人化する流れ・必要な手続き【医療機関経営者向け】

今が医療法人化するタイミングだと感じていても、具体的な流れや必要な手続きが分からないと進めていくのが難しいと思います。ここでは、医療法人化の流れと具体的な手続きについて解説します。自治体によって若干異なる場合があるため、気をつけてください。
医療法人を設立するための要件
・欠格条項(法第46条の4第2項)に該当していない方
・1か所以上の病院・診療所などがあり、医療行為に必要な設備を確保している
医療法人を設立するには、いくつかの要件を満たすことが必要です。まず、設立者は医師または歯科医師でなければなりません。
次に、欠格条項(医療法第46条の4第2項)に該当しないことを確認しましょう。また、少なくとも1カ所以上の病院や診療所を保有し、医療行為に必要な設備を確保していることも条件となります。
これらの要件を満たすことで、地域医療の発展に寄与する法人設立が可能となります。詳細は各都道府県でやや異なりますので、必ず確認しましょう。
医療法人を設立する手続きの流れ
2.設立説明会への参加
3.定款の作成
4.設立総会の開催
5.設立認可申請書の提出・審査
6.設立認可書受領
7.設立登記申請・完了
医療法人の設立手続きは、各都道府県で異なる場合がありますが、上記の表の流れに沿った流れになっていることが多いです。まず、設立事前協議や設立説明会への参加、定款の作成、設立総会の開催を行い、医療法人化する上での基本的な部分を決定しましょう。
次に、設立認可申請書を提出し、審査を受けます。審査が完了すると、設立認可書が交付されるでしょう。
その後、2週間以内に法人登記を行えば、手続きは完了です。
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医療法人のメリットと注意点を把握し、適切な選択をしよう
医療法人とは、病院や診療所、介護老人保健施設、介護医療院の設立と運営を目的とした非営利の法人形態のことです。税制上の優遇や社会的信用度の向上、事業規模の拡大がしやすいなどのメリットがあります。しかし、運営管理の煩雑化や社会保険の加入義務など注意すべき点もあります。医療法人化のタイミングを理解し、適切な選択をしましょう。
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