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Solasto online
2021.4.27

「失われた声」を取り戻す
次世代医療への新たな挑戦

お話を伺った人:
東京大学大学院
竹内 雅樹さん

喉頭がんなどが原因で「失われた声」を、テクノロジーで取り戻す――。そんな挑戦をしているのが、東京大学大学院の竹内雅樹さんが率いる研究チームです。竹内さんらはAI技術を取り入れ、“その人の声”に近い音声を作り出すハンズフリーの電気式人工喉頭「Syrinx(サイリンクス)」を開発。経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2021」をはじめ、多くのコンテストで受賞するなど、高い評価を得ています。次世代の医療装置(デバイス)の開発への思いをうかがいました。

装置の開発を通して医工連携を進めたい

医療装置の開発に取り組んだ経緯を教えてください。

竹内 昔から音楽が好きで、音声に興味を持っていました。中学高校時代に、ハンディキャップを持った人たちと接する機会があり、「耳が聞こえない方にも音楽を聴いて感動してもらいたい」と思うようになりました。

その思いから慶應義塾大学理工学部に進学し、声を失ったALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんを支援する「マイボイス・プロジェクト」でALSの患者さんと接して気づいたのは、「声を失うことが、いかに大変か」ということです。そして、「声にも、その人のアイデンティティがある」ということでした。

マイボイス(音素ベースで個人の声を録音、声が失われた後にパソコンで再生できるソフトウェア)を使って話している人は自身の病気について講演で語るなど、前向きで行動力のある方が多くいました。それを見て、医療技術が人々の生きる助けになるのではないかと考えるようになりました。

「Syrinx」とは、どのような装置でしょうか。

竹内 首にかける形で装着する電気式人工喉頭(EL)で、喉付近に当てた機器からの振動音を、口や舌の動きで言葉として発声させます。従来のELは機械が作る音声でしたが、Syrinxは人の声をベースに使っており、装着するだけで、誰もが使用できるように工夫しました。

ELはすでに製品化されていましたが、使用する際に手で持たなければならず、音声はロボットのように単調など、使いづらい仕様です。ELを使った発声練習の映像を初めて見た時には衝撃を受けました。さまざまな分野で技術革新が進んでいるのに、どうして機械音のような声しか出せないのか。20年以上前から改良されていなかったのです。

ELの改良はこれまで試作段階で終わっていました。医療に限らずですが、日本で技術開発が進まないのは、外国に比べると新しいものを受け入れる環境ができていないと感じています。実際にSyrinxの開発を進めるうえでの手続きは複雑で、多くの時間が割かれています。製品化するのに時間がかかり、世の中に出たときにはすでに外国製のものが市場を占めているといった現状もあります。

また、医師と工学系の技術者によるコミュニケーション不足も技術開発が進まない要因の1つといえます。次世代においては、遠隔による医療提供などさまざまなサービスが整備されていきます。その基盤づくりを担う技術者を医療者にもっと活用してもらえるよう、装置の開発を通して医工連携を進めていきたいです。

困っている人の課題をアイデアと技術で解決

今後の目標を教えてください。

竹内 私たちの活動の目的は、Syrinxを製品化し、世に出すことだけではありません。まずは、「声を失っている人がいる」「ELという方法がある」ことを、世の中に広く知ってもらいたいです。それが、社会を変えることになればと思っています。

20年間変わらなかったものを変えられたのは、咽頭摘出をした人の患者会である「銀鈴会」に協力いただいたことが大きいです。試作品を見てもらい、「見た目が悪ければ使う気にならない」と言われたこともありました。それでも「期待しているよ」という声かけをいただいたこともありました。銀鈴会との交流を通じて、実際に使う側、患者視点を取り入れることの大切さを学びました。

アドバイザーとしてかかわっていただいている東京大学附属病院の上羽瑠美医師は、「がん治療によって命を救えたとしても、患者さんにとって声を失うことは生きる希望を失ってしまうことになります。声を取り戻せる装置があることを、患者さんに教えてあげられるようになればいいですね」とよくおっしゃいます。実際に装置を介して、医師と患者さんをつなぐことができると感じています。

がん領域では見えない、知られていないところで不便な思いを抱えている人がまだまだいることを医療者の方にも知ってもらいたいです。将来的にはエンジニアとして、世の中の困っている人の課題をアイデアと技術で解決し、社会貢献していきたいと思っています。

(提供:株式会社日本医療企画)
以上