医療DX推進体制整備加算を解説!施設基準・要件や医療機関に求められることは?
医療機関等が行うDXへの取り組みを評価する制度として、「医療DX推進体制整備加算」があります。令和7年4月から新たな要件が加わり、今後も見直しが予定されています。今回は、医療DX推進体制整備加算とはどのような加算であるか、具体的な施設基準や算定できる点数を紹介します。今後行うべきことを知りたいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
医療DX推進体制整備加算とは
医療DX推進体制整備加算は、令和6年度の診療報酬改定の際に新設された加算制度です。オンライン資格確認によって得た情報を診療に活用できる体制を整えていて、かつ、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋など医療DXの導入を進めている医療機関を評価します。
医療DXとは、診療などで発生するデータを基盤上(クラウド等)で医療機関や保健・介護関係者間で共有し、より良質な医療やケアを受けられるようにする厚生労働省の取り組みです。高齢化が進む中で、医療従事者の負担軽減や国民のさらなる健康増進を図ることを目的としています。
医療DX推進体制整備加算の段階的な見直し
出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」
医療DX推進体制整備加算は、令和6年度の診療報酬改定からスタートし、その後段階的に見直しが行われてきました。令和6年10月には、主にマイナンバーカードの健康保険証としての利用率などに応じて、加算区分が1~3に分けられ、利用率が加算点数に反映されるように見直しが行われています。
令和7年4月、2度目の見直しでは、電子処方箋を導入している施設がより高く評価されるように施設基準が見直されました。加算区分が1~6に分かれ、現在にいたります。
【令和7年4月適用】医療DX推進体制整備加算の施設基準・要件
令和7年4月から適用されている、医療DX推進体制整備加算の最新の施設基準と要件、さらに今後の変更予定を以下に紹介します。算定にあたって間違いがないように、正しい内容をしっかりと確認しておきましょう。
施設基準・算定できる点数
| 名称 | 医科 | 歯科 | 調剤 |
|---|---|---|---|
| 医療DX推進体制整備加算1 | 12点 | 11点 | 10点 |
| 医療DX推進体制整備加算2 | 11点 | 10点 | 8点 |
| 医療DX推進体制整備加算3 | 10点 | 8点 | 6点 |
| 医療DX推進体制整備加算4 | 10点 | 9点 | なし |
| 医療DX推進体制整備加算5 | 9点 | 8点 | なし |
| 医療DX推進体制整備加算6 | 8点 | 6点 | なし |
| 施設基準 | |||
| ・オンライン請求を行っている。 ・オンライン資格確認を行う体制を有している。 ・【医科・歯科】医師・歯科医師が、電子資格確認で取得した診療情報を診療室・手術室・処置室等で閲覧または活用できる体制を有している。 【調剤】保険薬剤師が、電子資格確認で取得した診療情報を閲覧または活用し、調剤できる体制を有している。 ・【医科・歯科】電子処方箋を発行する体制または調剤情報を、電子処方箋管理サービスに登録する体制を有している。 (加算1~3のみ) 【調剤】電子処方箋を受け付けて調剤するサービスを有するとともに、紙の処方箋を受け付け調剤した場合を含めて、原則すべて調剤結果を速やかに電子処方箋管理サービスに登録する。 (加算1~3のみ) ・電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有している。 (経過措置:令和7年9月30日まで) ・マイナンバーカードの健康保険証利用について、実績を一定程度有している。 ・医療DX推進の体制に関する事項、および、質の高い診療を実施するための十分な情報を取得・活用して診療を行うことについて、当該保険医療機関の見やすい場所・ウェブサイト等に掲示している。 ・マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じる。 ・【調剤】電磁的記録による調剤録および薬剤服用歴の管理の体制を有している。 |
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出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」
令和7年4月より、医療DX推進体制整備加算は、6つの区分に分類されました。満たしている施設基準が多いほど、算定できる点数が高くなる仕組みです。
選定に必要な施設基準として、「オンライン資格確認を行っていること」「マイナンバーカードの健康保険証利用率の実績を一定以上満たすこと」などがあります。加算1〜3を算定するには、「電子処方箋を発行する体制、もしくは、調剤情報を電子処方箋管理サービスに登録する体制を有すること」の施設基準が必要です。
マイナ保険証利用率実績について
| 適用時期 | 令和7年4月1日〜令和7年9月30日 | 令和7年10月1日〜令和8年2月28日 (※1) |
令和8年3月1日〜令和8年5月31日 (※1) |
|---|---|---|---|
| 利用率実績 | 令和7年1月~ | 令和7年7月~ | 令和7年12月~ |
| 加算1・4 | 45% | 60% | 70% |
| 加算2・5 | 30% | 40% | 50% |
| 加算3・6 | 15%(※2) | 25%(※3) | 30%(※4) |
出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」
※1:2025年9月時点で「案」として発表されている数値です。
※2〜4:「小児科特例」による別途要件あり。
令和7年12月1日に、発行済みの健康保険証に対する経過措置が終了する予定です。これを受けて、医療DX推進体制整備加算の施設基準にある「マイナ保険証の利用率」は、令和7年10月〜令和8年5月末までの間で2回に分けて要件が見直されます。
たとえば、加算1・4は令和7年9月末までは、45%のマイナ保険証利用実績で算定できますが、令和7年10月〜令和8年2月末までの期間は60%、令和8年3月〜5月末までは70%と、段階的に割合が引き上げられていきます。
医療DX推進体制整備加算を算定するには、より多くの患者さんにマイナ保険証を利用してもらえるように、院内の体制を整える必要があります。加えて、病院の受付・事務職員が加算制度やマイナ保険証の運用方法を正しく理解し、患者さんへの声かけの徹底や院内掲示の工夫をするといった取り組みも重要です。
算定回数の上限
医療DX推進体制整備加算は、医療DX推進に関する施設基準を満たしている保険医療機関に通院する患者さん1人につき、初診時、月1回に限り算定できると定められています。
同月に複数回来院した場合でも、月1回しか算定できませんので注意が必要です。
医療DX推進体制整備加算にかかわる経過措置・特例
医療DX推進体制整備加算には、一部の施設基準について経過措置や特例が設けられています。電子カルテ情報共有サービスに関する経過措置と、小児科特例について最新の情報を見てみましょう。
電子カルテ情報共有サービスについて
| 適用時期 | 令和7年4月1日〜令和7年9月30日 | 令和7年10月1日〜 |
|---|---|---|
| 経過措置 | 令和7年9月30日まで | 令和8年5月31日まで |
出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」
「電子カルテ情報共有サービス」は「全国医療情報プラットフォーム」の仕組みの一つで、全国の医療機関や薬局などで電子カルテ情報を共有するためのシステムです。
これまで、医療DX推進体制整備加算の施設基準にある「電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有すること」は、令和7年9月30日までの経過措置とされていました。
しかし、医療機関の状況やこれに関わる法律案が未成立であることを踏まえ、令和8年5月31日まで経過措置が延長されることになりました。
小児科特例について
小児のマイナ保険証利用率は、成人に比べて低い現状があります。そのため、小児科外来診療料を算定している医療機関で、かつ、前年の延外来患者数のうち6歳未満の患者さんの割合が3割以上の場合、「小児科特例」を活用可能です。
具体的には、加算3・6において、各適用時期の本来のマイナ保険証利用率要件よりも3%軽減されます。
【小児科特例を活用する場合のマイナ保険証利用率の要件】| 適用時期 | 令和7年4月1日〜令和7年9月30日 | 令和7年10月1日〜令和8年2月28日 (※1) | 令和8年3月1日〜令和8年5月31日(※1) |
|---|---|---|---|
| 利用率実績 | 令和7年1月~ | 令和7年7月~ | 令和7年12月~ |
| 加算3・6 | 12% | 22% | 27% |
出典:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」
これからの医療機関に求められること
今後、医療機関はさらなるDX体制整備への取り組みが必要とされるでしょう。具体的にはどのようなことが求められるのでしょうか。詳しい内容について以下で詳しく見ていきましょう。
患者さんにマイナ保険証の利用を促す
医療DX推進体制整備加算では、マイナ保険証の利用率実績の高さが算定できる加算の区分に影響します。
受付での案内や院内掲示、リーフレットを活用し、患者さんにマイナ保険証で受診することの利便性やメリットを適切に伝えることで、利用率増加を図れるでしょう。
また、2025年9月下旬より、スマートフォンによるマイナ保険証利用もスタートします。機器の準備が整っている医療機関に限定されるものの、今までよりも利便性が高まります。この点も含めて案内するようにするとよいでしょう。
医療機関全体で共通の認識を持って取り組む
医療DX推進体制整備加算をはじめ、適切な診療報酬の算定は医療機関の収益確保のため重要な取り組みです。DXの推進は、単に業務効率アップのためだけではなく、「医療の質向上」と「働き方改革」を実現する必須の経営戦略として求められています。
よって、医療機関全体で職員全員が共通の認識を持ちDXの導入から運用までを行っていく必要があります。適切な運用のためには、スタッフの育成・教育が必須の課題です。
また、患者さんの個人情報を守るため、医療機関のセキュリティ対策を強化するなどの対策も求められるでしょう。
【具体的に行うべき取り組み】・医療機関向けのサイバーセキュリティ教育研修を実施する
・院内のサイバーセキュリティ対策を強化する
計画的に取り組みを進める
医療DX推進体制整備加算は、医療機関の収益に関わる大切な要素です。医療DX推進体制整備加算の継続的な算定と、質の高い医療提供を両立させるためには、電子カルテ情報共有サービスと電子処方箋への対応が必須であり、明確な行動計画のもとに進める必要があります。
特に重要なのは、以下二つの点です。一つは、対応期限の確認です。電子カルテ情報共有サービスには現在、経過措置期限が令和8年(2026年)5月31日まで設けられており、この期限までに必ず活用体制を整備しなければ、加算の算定資格を失うことになります。
もう一点は、システム更新の連携です。今後のDX対応の負担を軽減するため、既存の電子カルテやレセプトコンピューター(レセコン)の更新時期を正確に把握し、そのタイミングで、国が定める標準仕様に対応したシステムへの入れ替えを完了させる計画を立てることが求められます。
日々技術が進む中、それぞれの医療DXは導入して終わりではありません。今後、全国医療情報プラットフォームを介してさまざまな医療情報の共有が計画されています。日々最新情報をチェックし、新しい技術に適応できるようにしていかなくてはいけません。
適切な加算の算定を行い、質の高い医療を目指しましょう!
医療DX推進体制整備加算は、令和7年4月から区分が見直され、マイナ保険証の利用率実績に応じて算定できる区分・点数が変動するようになりました。新しいシステムの導入・活用には労力やコストがかかりますが、その分、業務効率アップや患者さんの利便性向上にも役立ちます。常に最新情報をチェックして院内の体制を整え、より質の高い医療の提供を目指していきましょう。
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