医療従事者の賃上げがいつからいつまで?2026年の診療報酬改定でどうなるのか徹底解説
近年、医療従事者の賃上げが話題に上がっています。医療従事者の賃上げは、単なる人件費の増加ではなく、医療機関の今後を左右する重要な経営戦略の一つと捉えることが大切です。今回は、最新の診療報酬改定や2026年の改定をふまえて、医療従事者の賃上げ状況や具体的な対策、医療機関経営者に求められる今後の対応などを徹底解説していきます。
なぜ医療従事者の賃上げが話題になっているのか
昨今、医療従事者の賃上げの動向が注目を集めています。まずは、どのような背景から医療従事者の賃上げが進められているのかをみていきましょう。
背景①:人手不足・物価上昇・医療需要の増加
近年、医療現場では看護師や医療事務などの人材不足が一層深刻化している状況です。さらに、ここ数年の物価上昇はスタッフの生活費の負担を増やしています。煩雑な業務に見合わない給与と感じる方が増え、離職を検討する方が増加し、人材不足に拍車をかけています。
また、高齢化や感染症対応による医療需要の増加も重なり、スタッフの処遇改善の必要性が高まっている現状です。その中でも、とくに賃上げは、現場の維持と質の確保のために早急に取り組むべき課題として注目されています。
背景②:制度改定・報酬改定の動き(2024-2025年)
2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の給与改善を目的とした評価制度が導入されました。こうした背景もあり、ベースアップにつながるような人件費の引き上げが、制度的に後押しされる形になっています。
医療機関は、賃上げに必要な財源の確保や具体的な実施に向けた取り組みを迫られており、業界全体の賃上げ実施の機運が一気に高まっている状況です。
背景③:2026年度診療報酬改定に向けた政策・政党の公約との関係
2026年に向けて、政府や主要政党は医療従事者の処遇改善を重要な政策課題や公約として掲げています。今後の政策や選挙結果によっては、この賃上げの流れが継続・拡大していくことが見込まれるでしょう。
医療機関の経営者や開業医にとって、医療従事者の賃上げは単なる一過性の対応としてではなく、長期的な経営戦略として取り組むことが求められています。制度動向を把握し、計画的に対応していくことが必要です。
診療報酬改定で何が変わったのか
診療報酬は、原則として2年に一度改定されます。たとえば、直近の2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを目的に「ベースアップ評価料」が新設されました。
ここでは、2024年度の診療報酬改定で具体的に何が変わったのかを解説していきます。
診療報酬とは
診療報酬とは、病院やクリニックなどの医療機関が、患者さんに医療サービスを提供したことに対して受け取る報酬のことです。患者さんが窓口で支払う自己負担分と、健康保険などの公的保険からの支払い(保険者負担分)で構成されています。
診療報酬は、一つひとつの医療行為に定められた点数に、「1点=10円」をかけることで計算が可能です。算定には、定められた人員配置や設備などの基準を満たす必要があります。
医療機関の経営を支える主な収入源であり、人件費や医療材料費などが診療報酬から賄われている状態です。
2024年度の診療報酬改定の詳細
②地域医療の強化と医療DXによる連携推進
③安心・安全な質の高い医療の実現
④医療保険制度の効率化と持続可能性の向上
2024年度の改定では、以上の4点がとくに注目されました。
具体的には、医療従事者の賃上げを支援するための評価制度が新たに導入され、給与改善を計画的に進めやすくなりました。看護師や薬剤師、そして医療事務などのスタッフ確保や定着に直結する仕組みが整備されています。
また、電子カルテや遠隔診療などの医療DXの活用による業務効率化を図り、スタッフの負担軽減や働き方改革の実現も目指す内容となりました。
具体的な賃上げ対策とは
2024年度の診療報酬改定では、具体的な賃上げ対策としてベースアップ評価料をはじめとした入院基本料や再診料などの引き上げが明記されています。
政府の方針として、2024年度は平均で2.5%、2025年度は2.0%のベースアップが目標です。ただし、ベースアップ評価料のみで全てを賄うわけではありません。
医療機関の過去の実績や賃上げ促進税制など診療報酬以外の支援事業を組み合わせることで、医療従事者の賃上げの達成を目指していくことが求められます。
令和6年度診療報酬改定による医療従事者の賃上げ状況と対象職種の概要
賃上げの状況と対象職種は、2024年度診療報酬改定で具体的に明示されています。ここでは、賃上げの対象職種を改定率別に解説していきます。
【+0.61%】の改定率で賃上げ対象となる職種
薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者、診療放射線技師、診療エックス線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師、柔道整復師、公認心理師、診療情報管理士、医師事務作業補助者、その他医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)
病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する上記の職種が、+0.61%改定の対象です。
【+0.28%】の改定率で賃上げ対象となる40歳未満の職種
・勤務医師
・勤務歯科医師
・勤務薬剤師
+0.28%の引き上げは、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師等の賃上げを見込んで初再診料などの包括点数に一律に措置されました。この増収分は、特定の職種に限定されませんが、これらの職種の処遇改善に充てられることが期待されています。
※2024年度診療報酬改定では、診療報酬本体が +0.88%の改定率でしたが、このうち +0.61% は看護職員や病院薬剤師などの賃上げを要件としたベースアップ評価料の新設分です。また、+0.28%程度は、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師、薬局の勤務薬剤師に対する賃上げ措置として、入院基本料等の引き上げに充てられました。それ以外の職種(事務職員、歯科技工所等で従事する者 等)については年齢の制限はありません。
そのほかの職種
ベースアップ評価料による賃上げは、対象となる職種に限られます。したがって、対象外の職種は賃上げの対象にはなりません。一方、対象の職種であれば、正社員に限らず、非正規のパート職員や派遣職員など他の雇用形態であっても賃上げの対象とすることが可能です。
なお、厚生労働省の「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて」の資料には、次のように明記されています。
ベースアップ評価料の算定対象外の職種についても、この包括点数(+0.28%)の引き上げ分や、その他の増収分を財源として、全職員の処遇改善を目指すことが政府から推奨されています。
医療従事者の賃上げをしないと将来的にどうなるのか
・人材不足の深刻化
・他業種・他医療機関への人材流出
・モチベーションの低下
・医療の質の低下
・ベースアップ評価料の算定要件が満たせない
医療従事者の賃上げを行わない場合、スタッフの離職や転職が増加し、人手不足がさらに深刻化する恐れがあります。
とくに、看護師や薬剤師といった専門職の確保が難しくなり、結果として採用コストや教育コストの増加につながりかねません。また、残ったスタッフのモチベーション低下や過重労働が発生し、医療サービスの質低下や医療事故リスクの増大も懸念されます。
長期的には、医療機関の経営悪化や地域医療提供体制への悪影響も避けられないでしょう。合わせてベースアップ評価料の算定要件が満たせなくなり、悪循環に陥る可能性もあります。
こうしたリスクを踏まえ、賃上げは単なる人件費ではなく、安定的な医療機関の運営と質の維持のために必要不可欠です。戦略的投資と考えることが無難でしょう。
2026年度診療報酬改定に向けて医療機関経営者がやるべきこと
2026年度診療報酬改定の内容は、2025年11月時点ではまだ議論されている段階であり、明確な内容は未定です。しかし、働き方改革の推進や他業界の賃金改善の流れから、プラス改定になることが予測されます。
この大きな節目に向けて、経営を安定させるために、医療機関経営者は今から以下の準備を進めておくとよいでしょう。
【医療機関経営者が行うべき準備】・自院の経営状況や現場の実態を把握する
・収益改善・業務効率化に向けた対応を進める
賃上げについてどのような内容が盛り込まれるか、最新情報をチェックし、早期に対応できるよう準備を進めることがポイントです。
実際に賃上げを行うにあたって、まず、自院の経営状況や現場の実態を把握しましょう。職種別・年代別の給与水準や離職状況を正確に分析し、賃上げの必要額を見積もります。
また、賃上げと並行して、業務効率化やコスト削減を徹底的に実施し、収益状況の改善を目指すのがおすすめです。
たとえば、医療事務の業務を効率化するシステムの導入などは、人件費の負担軽減に直結し、賃上げの財源確保につながります。賃上げは、経営体質の改善とセットで考えることが成功の鍵です。
医療従事者の賃上げに関するよくある質問
ここでは、医療従事者の賃上げに関するよくある質問に回答しています。
病院経営者として今からできる具体的な対応はありますか?
診療報酬のベースアップ評価料に加え、賃上げを税制面で支援する「賃上げ促進税制」の活用が可能です。これは、給与の増加分に応じて税額控除が受けられる制度です。この税制を評価料と組み合わせることで、実質的な賃上げコストを抑えながら、計画的に賃上げに取り組めます。また、現状のコスト削減や業務効率化を行い、収益状況の改善にも努めましょう。
2026年以降の賃上げ見通しはどうなっていますか?
医療分野の働き方改革や人材確保の重要性は高まっており、賃上げの流れは一過性で終わらず、持続的な取り組みとなることが予測されます。
診療報酬改定と並行して、医療機関の経営体質改善や医療DXによる生産性向上が、賃上げの鍵となるでしょう。
診療報酬改定とスタッフの賃上げはどのように関係していますか?
2024年度の改定では、「ベースアップ評価料」が新設され、医療機関が職員の給与等を引き上げるための収入を確保できる仕組みが作られました。これにより、医療サービスによって得られた収入が、人件費の上乗せに充てられることで、政府目標とする賃上げ率の実現を制度的に後押ししています。
医療従事者の賃上げは重要な経営戦略のひとつ!計画的に取り組んでいこう
看護師をはじめとする人手不足や医療需要の増加などを背景に、医療従事者の賃上げに取り組む動きが活発化しています。
賃上げは、評価対象外の職種も含め全スタッフの処遇改善を目指し、税制優遇も活用しながら進めることがポイントです。医療従事者の処遇改善を怠ると、人材流出や医療の質低下を招きます。長期的には質の高い医療の提供と、安定的な経営を揺るがす事態になりかねません。
賃上げは経営安定のための戦略的投資と捉え、2026年度改定も見据えて計画的に対応していきましょう。
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