医療業界におけるDX化は、将来迎える超高齢社会に対応するため国を上げて推進されています。しかし、医療DXを進めるために何から準備してよいかわからない方も多いのが実情です。本記事では、病院経営者様や開業医様に向けて、医療DX推進に向けた具体的な施策や推進するメリット、導入に必要な準備・行動を紹介します。
医療DXとは?
医療DXとは、デジタル技術を活用して医療・保健・介護業界全体のサービスや業務のプロセスを革新する取り組み全般を指します。各分野で発生する情報やデータを集積する基盤を整備し、国民の疾病予防や健康増進などに役立てようとする取り組みです。
医療分野におけるDXの代表例として、電子カルテの導入やオンライン資格確認システム、遠隔医療などが挙げられます。医療DXを推進することで、医療従事者の負担軽減や業務の効率化による経営改善、患者さんに提供するサービスの質向上などの実現が可能です。
なお、厚生労働省は、医療DXについて以下の通り定義しています。
医療DXを推進する目的
②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
③医療機関等の業務効率化
④システム人材等の有効活用
⑤医療情報の二次利用の環境整備
厚生労働省が掲げる医療DXを推進する目的は、大きく上記の5つです。医療DXを進めることで、インターネットを通じて情報やデータの管理・共有がしやすくなります。
医療・介護・保健の各分野でスムーズな情報共有・連携ができ、一層患者さんに寄り添った治療計画の立案やケアの実施を目指せるでしょう。診断や治療精度の向上が期待でき、患者さんに対するケアをより適切に行えるようになります。患者さん本人も、集約されたデータを自分自身の健康管理に役立てられるでしょう。
また、DX化によって医療従事者の業務効率も高まります。医療現場の負担軽減や業務の迅速化といった、働き手側も多くのメリットを享受できるでしょう。
政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」
「医療DX令和ビジョン2030」は、医療DXを推進するための基本方針を定めたものです。政府が中心となり2022年に策定制定され、厚生労働省(推進チーム)が実現に向けた活動をしています。
「医療DX令和ビジョン2030」では、全国医療情報プラットフォームの創設や診療報酬改定など3つの柱を掲げ、これらを基盤に各種施策を展開しながら医療DXの実現を目指していくと定めています。
【医療DXの3つの柱】
・電子カルテ情報の標準化等
・診療報酬改定DX
出典:厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム」
医療業界が抱える主な課題
・医療従事者の業務負担が問題になっている
・病床制限などの影響で適切な医療の提供ができていない
・他業界に比べてデジタル化が遅れている
医療業界では現在、高齢化に伴い医療サービスへの需要が増加・多様化する一方で、少子化による深刻な担い手不足という構造的な危機に直面しています。加えて、医師の地域偏在による医療提供体制への懸念や、病床制限などの影響から適切な医療が提供できず経営不振につながっている等も深刻な問題です。
それにもかかわらず、他業界に比べてデジタル化などのDX対応が遅れており、業務効率の改善が進んでいないのが現状です。これらの課題を解決し、従事者の負担軽減と持続可能な医療体制を実現するためには、医療DXの推進が不可欠となっています。
医療DX推進に向けた主な取り組み
・マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認の導入
・標準型電子カルテシステムの導入
・電子カルテ情報共有サービスの導入・活用
・タスク・シフト/シェア
・電子処方箋の導入・活用
・ビッグデータの活用
・診療報酬改定DX
政府が進める医療DXには、具体的にどのような施策があるのでしょうか。では、その実現に向けた主な取り組みを紹介します。
全国医療情報プラットフォームの創設
全国医療情報プラットフォームとは、保健、医療、介護の分野で患者さんや利用者さんの情報を共有できるシステムです。医療DXの推進によってプラットフォームの活用が進むと、各分野間で円滑な情報共有ができるようになり、提供する医療・介護サービスの質向上や医療機関受診のサポートなどに活用できます。
患者さん情報を一元管理することで、過去の既往歴などから予想される疾患を判断したり、使用中の薬剤情報をすぐに確認できたりするなど、多くのメリットがあります。要介護認定状況の確認や特定健診等の結果を管理するといった使い方も可能です。
また、全国医療情報プラットフォームの創設・活用は、現在、問題となっている重複投薬や重複受診を減らす意図もあります。
マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認の導入
医療DX推進の一環として、従来の健康保険証は2024年12月2日に廃止され、マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認へと全面的に移行しました。これにより薬剤や健診情報の一元管理が進み、医療の質の向上や業務効率の大幅な改善が図られています。
さらに現在は、通常の診療時だけでなく、予防接種や公費負担医療制度、母子健診などの場面でもこの仕組みを活用できるよう、令和8年度からの適用範囲の拡大に向けた準備が進められています。
標準型電子カルテシステムの導入
現在、電子カルテは医療機関ごとにシステムの仕様が異なり、円滑な情報共有が難しい状況にあります。こうした課題に対し、政府は2024年度より「標準型電子カルテ」の開発を進めており、全国規模でのスムーズなデータ連携の実現を目指しています。
なお、すでに独自のシステムを導入している医療機関については、次回のシステム改修のタイミングに合わせて、標準規格への改修や標準型電子カルテへの移行を目指す方針が示されています。
電子カルテ情報共有サービスの導入・活用
電子カルテ情報共有サービスは、医療機関や薬局、介護などの間で患者さんの医療情報を効率的に共有するためのシステムです。これにより、紹介状などの「3文書」や薬剤アレルギー情報を含む「6情報」を、全国規模で閲覧・共有できるようになります。
なお、本サービスの活用には、前述の「標準型電子カルテシステム」を導入していることが前提です。情報の標準化を通じて、地域を超えた切れ目のない質の高い医療・介護連携の実現が期待されています。
タスク・シフト/シェア
タスク・シフト/シェアは、医師の長時間労働や地域ごとの医師数の偏在・従業者不足などの問題を改善するための取り組みです。
「タスクシフト」は、医師の業務の一部を看護師や薬剤師などの他職種に移管して、医師の負担を軽減する取り組みを指します。一方「タスクシェア」は、医師の業務を複数の他職種で分担する「業務の共同化」の意味であり、職種を超えて協力する取り組みです。
多職種で連携しながら、より効率的な医療提供体制を整えるための取り組みとして、重要視されています。
電子処方箋の導入・活用
電子処方箋は、処方・調剤情報をデジタル化し、医療機関や薬局間で共有する仕組みです。全国医療情報プラットフォームを構築する取り組みの一環として位置付けられています。
医師や薬剤師が過去の投薬情報を正確に把握できるようになり、重複投薬の防止や患者さん自身が健康管理に役立てられる効果などが期待できます。
普及も進んでおり、2025年6月22日時点でオンライン資格確認を導入済みの医療機関等の33%が運用を開始しました。今後も導入拡大による医療安全の向上が見込まれます。
ビッグデータの活用
医療DXでは、蓄積された医療ビッグデータを研究機関や企業が利活用する取り組みが進められています。これにより、さらに有益な治療法や革新的な医療機器の開発など、将来の医療発展に活かせる点が大きなメリットです。
一方で、個人の診療情報の活用にはプライバシーや権利侵害のリスクも伴います。そのため現在は、データの有用性と権利保護のバランスを考慮し、安全かつ適切に利活用できる環境整備に向けた準備が進められています。
診療報酬改定DX
診療報酬改定DXは、デジタル技術を最大限に活用し、医療現場の負担軽減を目指すための取り組みです。2024年度より4つのテーマを段階的に推進しています。具体的には、報酬計算を担う「共通算定モジュール」の開発や処置や薬剤情報を統一コード化する共通マスタの整備、標準様式のデジタル化によるデータ連携の強化です。
加えて、改定施行時期の後ろ倒しによりシステム改修に伴う業務集中を緩和するなど、現場の効率化と円滑な運用に向けた環境整備が着々と進められています。
医療DXの推進がもたらす4つのメリット
医療DXを推進することは、患者さんだけでなく働くスタッフや病院経営者にも大きなメリットがあります。どのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
患者体験の向上
医療DXの推進により、窓口での受付や診療などさまざまな場面で、患者体験が大幅に向上することが期待できます。オンライン予約システムの導入や電子カルテの活用が進めば、患者さんの待ち時間が短縮されて、診療が円滑に進められるでしょう。
また、医療DXの推進によって遠隔診療が今より進めば、自宅にいながら専門医の診察を受けることも可能です。離島や地方などの医療問題の解決にもつながります。患者体験を向上させることで病院の評判も高まり、収益の面でもプラスに働くでしょう。
医療品質の向上
医療DXが進み、さまざまな医療機関のデータをクラウド上で共有できれば、医師はより正確かつ迅速に患者さんの診療ができるようになります。全国医療情報プラットフォームを通して患者さんの過去の診療履歴やアレルギー情報などを網羅的に確認できるため、診療の精度も向上するでしょう。アクセスできる情報が増えるほど、医療ミスのリスクも減少します。
また、オンライン上で情報共有をするため紙面でのやり取りは不要です。書類としての保存・管理する手間も削減できるでしょう。
コスト削減・業務効率化
医療DXの推進は、コスト削減と医療従事者の業務効率化にも大きな効果を発揮します。電子カルテやオンライン資格確認システムの導入により、紙ベースの管理が不要になり、運用コストを削減可能です。
電子処方箋を活用すれば、薬剤師との連携もスムーズになり、業務の効率化につながります。単純な事務作業が効率化されることにより、医療スタッフはより専門的な業務や患者さん対応に集中できるでしょう。
収支状況の改善
医療DXの実施による業務効率化は、現場の工数削減を実現し医療機関の収支改善に大きく寄与します。さらに2024年度改定では「医療DX推進体制整備加算」が新設されました。要件は段階的に見直されていますが、DXの推進度合いに応じて高い点数が算定できる仕組みとなっています。
つまり、積極的なDXへの取り組みこそが適切な診療報酬の獲得につながり、結果として医療機関の収支状況の、より確実な改善が期待できます。
また、政府は医療機関などに対して、医療施設等経営強化緊急支援事業を実施しています。業務の生産性向上や職員の処遇改善、施設整備など状況に応じて活用できる補助金制度であるため、積極的に活用することで収支状況の改善に役立てられるでしょう。
医療DX推進における4つの課題・デメリット
医療DXにはメリットも多い一方で、注意すべきデメリットも存在します。どのような点に課題があるのか、事前に確認をしておきましょう。
セキュリティ対策と導入コストの問題
医療DXの根幹はインターネットを利用した情報共有です。患者さんの個人情報や医療データがデジタル化されるため、サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクが懸念されます。トラブルを回避するため、十分なセキュリティ対策が欠かせません。
また、システムの導入やセキュリティ対策の整備には多大な初期投資が必要です。導入したツールを活用するためには、スタッフに運用に関する教育を行う必要もあります。中小規模の医療機関にとっては、初期投資が大きな負担となる場合もあるでしょう。
DX化に対応できる人材の育成が必要
医療DXは導入して終わりではなく、実際の業務でしっかりと運用されることがもっとも重要です。導入・教育・運用の計画をしっかりと立てて、医療機関で働くスタッフ全員が導入したシステムを扱えるよう教育する必要があります。
人材の育成には時間とコストがかかるため、計画的な取り組みを行いましょう。また、システムのアップデートなどにも対応できるよう、定期的な研修や勉強会などの実施も大切です。
また、人材の育成にかける時間を捻出するために、一部の業務をアウトソーシングする方法もあります。ソラストでは、必要な部分だけレセプト業務をリモートで代行するサービス「iisy」を展開中。詳細はリンク先をご確認ください。
医療DXを活用できる患者層の格差
患者さんの層によっては、医療DXを便利と感じられる人と不便に感じてしまう人とで分かれる可能性があります。とくに高齢者やデジタル技術に慣れていない患者さんにとっては、新しいシステムの利用が困難と感じることが多いです。
また、医療従事者の中にも新しい技術に対する抵抗感を持つ人が一定数存在するでしょう。病院へ訪れる患者さんの層や働くスタッフの声を意識しながら、より使いやすくシステムの運用体制を整備することが重要です。
医療費削減の目的
国としては、医療DXの目標の一つとして医療費の削減を掲げています。DX化のメリットは多数あるものの、医療費抑制の目標を達成するために、重複受診・検査の是正や診療報酬請求の厳格化などがさらに進む可能性が高いでしょう。
また、高齢者の増加によって、通院困難な患者さんに対して在宅で医療サービスを提供する体制を整えることも求められていきます。医療機関には、DX化のメリットを理解しつつ、国が掲げる医療費抑制の目標に対応できるような取り組みが求められると考えられます。
医療DXの導入を円滑に進める方法【医療機関経営層・管理職向け】
医療DXを円滑に推進するために、押さえておきたいポイントを紹介します。病院経営者様、開業医様はぜひ参考にしてください。
政府の動向や施策を都度確認する
政府は医療分野のDXを加速させるため、さまざまな政策や施策を打ち出しています。現行では、健康保険証を2024年12月で廃止し、マイナンバーカードでのオンライン資格確認に一本化されます。
医療DXに対する考え方や進め方は、国の政策に左右される事項が多いため、最新の情報を的確に把握して、自院で行うべき対応や準備の洗い出しを行いましょう。新たな施策や方針が決まる可能性にも備えて、心構えが必要です。
自院の現状と必要な施策を把握する
医療DXの導入にあたり、政府の動向把握とあわせて、自院の現状を正確に把握・分析することが重要です。すでに導入しているDXの内容や運用状況を洗い出し、未導入の施策についてはその必要性を検討しましょう。
こうして現状と課題を整理することで、今後自院がとるべき行動が明確化され、スムーズな導入が可能になります。
全体像を把握しながらDX導入を進める
医療分野でのDX化は、1つのシステムだけを見て「便利だから」と導入を進めてしまうのは危険です。後に、他のシステムと連携ができないなどの問題が発生する可能性があります。
そのため、DX化にあたっては、どのようなシステムをどのように連携し日々の業務に活かしていくのか、全体像をイメージしながら進めることが重要です。また、時には業務の流れや考え方を大きく変えることも必要です。
医療DX導入に使える補助金制度を活用する
国は、医療DXの導入にかかったコストの一部の補助を受けられる補助金制度を用意しています。医療DXの導入には多くのコストがかかるため、各制度をうまく活用することで経費の削減が可能です。
補助金等を利用する際には細かな規定や審査があるので、十分に要件を確認してうまく活用しましょう。
スタッフの教育・DXの運営体制を整える
医療DXは導入して終わりではなく、日常の業務の中でしっかりと運用されることで真価を発揮します。新しいシステムを導入した際にはスムーズに運用するために、スタッフの育成体制の整備を並行して行いましょう。
人材の育成をする際には、システムの使い方だけでなく達成したい目的なども共有しておくと、より効果的な運用を目指せます。また、万が一トラブルが起きた際の対応方法などをまとめたマニュアルの整備も忘れずに行ってください。
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